プレミアリーグの時間BACK NUMBER
頓挫したビラスボアスの「3年計画」。
迷走するチェルシーはどこへ行く?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2012/03/15 10:30
解雇されたビラスボアス(左)と、暫定監督のディマッテオ。長期的展望のない監督交代劇が続けば、クラブの先行きは暗いものにならざるを得ないだろう。
オーナーの意向はモウリーニョかペップの招聘だが……。
アブラモビッチが、代理人やアドバイザーの推薦で雇用したこれまでの監督たちとは違い、自らが白羽の矢を立て、ポルトへの契約解除金とアンチェロッティへの違約金を合わせれば、約36億円もの出費と引き換えに呼び寄せたビラスボアスに対して、強い思い入れを持っていたことは間違いない。だが、それも信頼の域ではあり得ず、来季のCL出場権獲得が危ういという目先の不安が、来季以降への期待を上回った。
かといって、後任獲得の準備が整っているわけでもない。ジョゼ・モウリーニョとペップ・グアルディオラが最優先ターゲットとされるが、いずれの招聘も現実味は薄い。
モウリーニョの求心力を以てすれば、不振で乱れたチームの輪を復元することは可能だろう。“スペシャル・ワン”の人気は、ファンの間でも未だに絶大だ。しかし、長期逗留を好まない優勝請負人タイプが、チームの屋台骨から作り直す仕事に向いているのかどうか。その過程では、愛弟子とも言うべきジョン・テリーやフランク・ランパードらに、自ら辛い現実を告げなければならない。また、新米監督ではなく恩師の意見ということで、ベテラン勢も甘んじてベンチ要員に徹するのだとしても、前回の退任劇を招いたオーナーとの確執が再発しないという保証はない。
ふたりのプライドを満たせる高年俸を提示できるか?
アブラモビッチは、レアルからの引き抜きに20億円以上が必要なモウリーニョに、減給を飲ませる意向だと言われる。8年前のモウリーニョには、CL優勝の実績があっても、ポルトからのチェルシー入り自体がステップアップに相当した。だが、インテルでもCLを制し、今季は、名実共に世界最強のバルセロナを抑えての国内リーグ優勝も見込まれる指揮官の格は、もはやチェルシーというクラブの格を上回る。レアルでの年俸約15億円は監督界の世界最高。プライドが更に高まっているはずのモウリーニョは、チェルシー帰還に興味を示したとしても、現状維持の待遇を最低ラインの要求として古巣に突きつけるのではないだろうか?
アブラモビッチがご執心のグアルディオラは、今夏でバルセロナとの契約が満了する。しかし、常に勝利を要求されるストレスから解放されたがっている監督が、短期間で無理難題の解決を要求されるチェルシーを新任地に選ぶだろうか? 3億円ほど多くなるはずのモウリーニョと同等の年俸で釣ろうとすれば、英国の最高所得税率が50%であることから、当人に業界1位の報酬という実感を与えるには、税込で20億円を超える年俸を覚悟しなければならない。