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<独占インタビュー> 石田正子 「競技のために、賭けなかった」 ~クロカン5位入賞、快挙の裏側~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShino Seki
posted2010/04/12 10:30
「自分ですごいと思って満足したら、終わりですよ」
だが、キャリアを振り返れば、こう思える。
トリノ五輪こそ10kmクラシカル31位、ダブルパシュート35位だが、'07年の札幌世界選手権30kmクラシカル13位、昨シーズンのチェコ・リベレツでの世界選手権10kmクラシカルで8位、ノルウェー・トロンハイムで行なわれたワールドカップ30kmクラシカルでついに3位。その時点での日本人最高位を塗り替えてきた。だからバンクーバー五輪もまた、次へ向かう過程に過ぎない。
着実に成長を続けられるのは、ときに数時間にもおよぶ走り込みなどハードな練習の成果だ。それを「やるべきことをやっているだけです」と淡々とこなせるのは、常に前を向き、速くなろう、強くなろうと志してきた証だ。次の言葉で、そうした思いはいっそう強くなった。
「すごいすごいって言われても、もっとすごい人たちはいっぱいいます。自分ですごいと思って満足したら、終わりですよ」
そういえば、大会前、石田を知る関係者は異口同音に、「石田は失敗しない」と言っていた。それは事実だった。力を発揮できずに終わることも少なくないのがオリンピックだ。まして、はたから見れば、自分で自分にプレッシャーをかけているのではないかと感じられるたぐいの目標を口にし続けた中でのことだ。なのに、誰もが「石田はやる」と確信したのは、石田のアスリートとしての姿勢にあったのではないか。
「なんとなく、ソチのオリンピックは楽しそうな気がします」
最後に、これからのことを尋ねた。
「来シーズンのその先はまだよくわからないんですね。でもなんとなく、ソチのオリンピックは楽しそうな気がします。ほんと、なんとなくですよ」
――その場にいるイメージは?
「そうですね。4年後は33歳ですか、まあ、年齢的にもできない歳じゃないので、はい」
――今度はメダルを?
「まあどうなるかわからないですけど。まずは目の前からです。はい」
来年、クロスカントリー発祥の国であり、特別な意味を持つノルウェーのオスロで行なわれる世界選手権が控える。
ひたすら前を向いて歩んできた石田の今回の5位入賞を快挙と言ったのは早すぎたかもしれない。
石田正子はきっともっと大きくなれる。
石田正子(いしだまさこ)
1980年11月5日、北海道生まれ。旭川大高、日大を経てJR北海道へ。'06年トリノ五輪出場。'09年世界選手権10kmクラシカル8位。同年W杯30kmクラシカルで銅メダル。同種目、'10年バンクーバー五輪にて5位入賞。161cm、57kg