Sports Graphic NumberBACK NUMBER

<“空白の一日”が変えた人生> 江川卓×小林繁 “悲劇のヒーロー”流転の31年間。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

PROFILE

photograph byYu Matsuyama

posted2010/04/09 10:30

<“空白の一日”が変えた人生> 江川卓×小林繁 “悲劇のヒーロー”流転の31年間。<Number Web> photograph by Yu Matsuyama

川藤ひとりだけに打ち明けていた引退の真相。

 日本一になった夜、解説者になっていた小林から祝福の電話が入った。

「なにいうとるんや。今から出てこんかい。そういって、祝勝会の席に呼び出した。もちろん、異論のあるやつなんかいなかった」

 小林は現役として優勝に立ち会うことなく、'83年に引退する。その年13勝をした投手が大きなけがもないのに引退するなど前代未聞である。

「余力を残してかっこよく辞めたかったのだ。スタイリストらしい終わり方さ」

 不可解な引退には、疑問の声や冷笑的な見方も聞こえてきた。しかし、川藤だけは引退の理由を知っていた。

「シーズンの甲子園での最終戦のあと、いつものように二人で飲みはじめた。すると突然、おっさん、オレ、今シーズンで辞めるわ、言いおった。当然びっくりですわ」

 川藤も後の世論と同じように気取った決断だと考えた。

「おまえひとりだけがエエカッコして辞めるんか。あとは誰がエースになるんや。おまえはあとのエースを育てたんか」

 川藤の剣幕に小林は理由を明かした。

「誰にもいわんでくれよ。実はもう、指に血が通わないんや」

 右手の血行障害だった。

「もし現役をつづけて、優勝のかかった試合で投手にゴロが来て、それをこの指のせいで悪送球したらどうなる。みんなに申し訳が立たん。それがあいつの言い分やった」

 川藤はその事実を胸にしまいこんだ。小林はこの話を川藤以外の人間に打ち明けることはなかった。

(続きは Number751号 で)

創刊30周年特別編集プロ野球 人間交差点 2010
コメントする・見る

関連コラム

BACK 1 2 3 4 5

この記事にコメントする

利用規約を遵守の上、ご投稿ください。

江川卓
小林繁
読売ジャイアンツ
阪神タイガース

プロ野球の前後のコラム

ページトップ