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リッピは暴君か、賢帝か?
アズーリをめぐるイタリア大論争。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2009/11/14 08:00
欧州予選を無敗で突破。イタリア代表率いるリッピはますます意気軒昂だが
リッピのユーベ重用を「癒着」と批判する声も。
ところが、今のイタリア国民は代表の極端な「ユーベ化」路線にもろ手をあげて賛成しているわけではない。ブッフォンが「南アフリカ大会の後、彼が来季のユーベ監督に就任しても驚かないね」と発言している通り、来季ユーベへのリッピ復帰説が現実味をもって語られている。そもそも現監督フェラーラの前職は代表副監督で、リッピの元右腕に“ノー”の選択肢はない。
つまり、「リッピのユーベ組重用は、身内贔屓と近い将来の転職先を見据えた癒着ではないのか?」という疑念が持ち上がっているのだ。加えて、未だ記憶に新しいコンフェデ杯での醜態と、今が旬のファンタジスタ、カッサーノ(サンプドリア)の招集を拒み続けていることで、リッピへの国民の不信感が高まっている。
先月14日、パルマでのキプロス戦は予選最後の消化ゲームだったが、凱旋試合になるどころか代表はブーイングに晒され、スタジアムは「カッサーノ! カッサーノ!」コールで沸いた。普段冷静沈着なリッピもこれには激高、試合後のTV会見という公の場でかなり激しい口調で一般ファンを攻撃した。
「私は怒り狂っている! 今夜のサポーターの態度は許し難い。恥を知れ! われわれは世界王者なんだぞ!? 私は、私の呼びたい人間だけを代表に呼ぶ!」
試合翌日の『コリエレ・デロ・スポルト』紙は「リッピよ、代表は貴方の私物ではない!」と、対立する一面見出しを打った。リッピと国民、それぞれの異なる代表像を分かつ溝は深くなる一方だ。
リッピは自身の正しさを連覇で証明できるか。
ユーベ・ブロックに賭けるリッピには、歴史上17人しかいないW杯優勝監督であるという自身の強烈なプライドがあり、一人ひとりが代表監督を自負するイタリア人は、今のチームでは連覇は難しいと非難する。82年大会優勝監督ベアルゾットは「すべての代表監督はそれぞれの選択をする。それが正しいかどうか、教えてくれるのは結果だけだ」と達観するが、前回王者の紆余曲折は、本番までの7カ月の間にまだまだ見られそうだ。