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ベルルスコーニの“お気に入り”は
名門を救えるか。
~ミラン新監督レオナルドの挑戦~ 

text by

弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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photograph byUniphoto Press

posted2009/07/26 08:00

ベルルスコーニの“お気に入り”は名門を救えるか。~ミラン新監督レオナルドの挑戦~<Number Web> photograph by Uniphoto Press

鹿島アントラーズでも華麗なプレーを見せたレオナルド。すっかり伊達男ぶりが板に付いたが、監督としてはどうか

 今月7日、リオ・デ・ジャネイロの教会でミランFWパトが盛大な結婚式を挙げた。それを聞いたオーナーのベルルスコーニはこう言った。

「それは不可能だ。宣誓を受ける神たる私は、そのときラクイラ・サミットを仕切っていたのだから」

 こんな笑い話が出るほど、イタリアにおけるシルヴィオ・ベルルスコーニという男の権力は絶大だ。日本風に無理やり解釈するなら“全国民放3局を含むマスメディア界を牛耳り、不動産デベロッパーおよび保険・金融機関の大株主で、個人総資産6千億円超の現内閣首相”。あまりに荒唐無稽すぎて、日本人には想像しづらい存在だ。

ミランの大改革に取り組むレオナルド新監督。

 彼の所有物の一つであるACミランは昨年、約89億円の赤字決算を出した。原因は出場を逃したCL報酬の減収と約227億円に達していた選手たちの総年俸支出。自らのポケットマネーで補填はしたものの、日々国家の経済問題解決に奔走する首相にとって見逃せない数字だった。「年俸総額30%カット」の号令の下、最高給だったカカはレアルへ売却された。長くチームの象徴だった主将マルディーニは引退し、名将アンチェロッティも去った。経営の健全化と生え抜きの育成強化を掲げたミランは今、一大転換期を迎えている。

 新シーズンにあたり、オーナーはかつてカペッロ(現イングランド代表監督)をそうしたように、現役引退後フロント業務経験を積ませていた“子飼い”を監督として送り込んだ。

 カペッロは、知将サッキの成功に続いて90年代初頭の黄金時代を築き上げた。アンチェロッティによる長期政権の後をまかされたのは、クラブの組織哲学を知り尽くす青年幹部レオナルドだった。知的でスマートな新監督は、先発メンバー編成から選手たちのおやつのメニューにまで口を出すオーナーの意向に表立って逆らう真似は、間違ってもしないだろう。

ロナウジーニョでさえ一選手。新生ミランの方針とは?

 監督経験皆無の“レオ”は就任にあたり、コーチングスタッフはもちろん練習場の庭師、ウェイター、果ては清掃員とも談話し、これからのミランをどうしたいか、一人ひとりに耳を傾けた。目的は、クラブを構成する全員のモチベーションの再喚起と意識の共有である。

 選手たちに対しては『走れ! 攻撃せよ! 楽しめ!』をスローガンに、「両SBは同時攻撃参加」「2タッチプレーの徹底」等、サイド攻撃倍増とシュートチャンスの多様化のためにプレー10カ条を示した。新しい基本布陣は「4-3-3」になるが、ロナウジーニョですらもう特別扱いはされない。12日に行なわれた今季最初の練習試合前、駆けつけたオーナー首相は、ロナウジーニョを食堂の小テーブル上に立たせると「今季はプロとしてふるまいます。勝利のために全力を尽くします」とチーム全員を前に誓わせた。

【次ページ】 “レオ”は口うるさいオーナーを黙らせられるか。

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