リーガ・エスパニョーラの愉楽BACK NUMBER
いまリーガで最も旬な男。
カナーレスはスペインの至宝となるか。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byMutsu Kawamori
posted2010/01/28 10:30
スペインのみならず、海外のビッククラブも注目しているというセルヒオ・カナーレス。今月14日の記者会見では「現在、僕は自分の状況について何も否定していない。でも、ここで満足しているのも事実だ」とコメントした
華麗なステップで敵を翻弄するカナーレスの実力は本物だ。
“幻のゴールを決められたレアルは、カナーレス獲得に動くのではないか?”
カナーレスの名前が新聞に登場し始めた当初、各紙の論調は、ロナウドが負傷離脱して得点力不足に陥っていたレアルに対する皮肉のようなニュアンスが強かった。ところが、それから間もなく「やはり、こいつは本物だ」と思わせるプレーをカナーレスが連発し始める。特に象徴的だったのは、エスパニョールのホームで0対4とラシンが勝利した第13節の試合と、セビージャのホームで1対2とラシンが勝利した第17節の試合だった。
エスパニョール戦ではFKから先制ゴールを生むピンポイントのクロスを送ると、その後は相手最終ラインを出し抜くフリーランニングから振り向きざまのシュートでゴールを挙げ、さらに後半27分には4点目のゴールを押し込んだ。
そして、セビージャ戦では前半25分にセビージャ最終ライン後方へと放たれたボールから抜け出すと、GKパロップをあざ笑うかのようなループシュートで1点目を挙げる。さらにその12分後には、再び相手最終ライン裏に飛び出してGKパロップと1対1の場面を迎える。今度はキックフェイントでパロップを完全に飛ばせて置き去りにすると、後方から追いすがるDFに対してもフェイントをいれるとDFはたまらず転倒。カナーレスは悠々と左足を振り、ゴールにボールを蹴りこんだのだった。
相手最終ラインを出し抜く絶妙なポジショニングと走り出しのタイミング、背中に目があるかのような視野の広さ、そして正確無比な左足のキックに加えて、カナーレスが踏むステップの優雅さ……。
腰の位置が上下しないカナーレスがステップを踏むと、彼の身体は滑るように移動する。その動きにDFが逆を取られるシーンは、まるで時間が止まったような印象を与える。メッシのような爆発的な加速で敵をねじ伏せるのではなく、敵の動きの先を見透かしているかのようにステップを踏んで相手DFまでも躍らせる。そして、その後にはシュートをゴールに蹴り入れて、その舞踏を締めくくる。
幼少時のカナーレスを取材した記者が、天才ぶりを裏付ける。
「カナーレスは子供時代にやっていたことと同じことを、リーガでもやっている」
カナーレスが11歳の時に、彼にとって人生初となるインタビューを行ったサンタンデール在住のABC紙記者、フランシスコ・アルゴス氏は語る。
少年時代のカナーレスはCB、SB、守備的MF、SHと現在の定位置であるトップ下やFWだけではなく、GK以外の全てのポジションでプレーしていたそうだ。そして、各ポジション毎に的確なポジショニングとプレーを選択し、さらには殆ど全ての試合でゴールを決めていたという。
「カナーレスはどんなポジションでもいつもニコニコ笑顔でプレーしていて、サッカーそのものが好きでたまらない少年、という感じだったよ。15歳くらいまではまだ体が小さかったが、彼がチームで最高の選手だというのは誰が見ても明らかだった。中盤より低い位置でプレーする時はまるでフェルナンド・レドンドのようだったし、攻撃を仕掛ける時には今のカナーレス、もしくはラウルのようだった。彼が11歳の時、1シーズンで50ゴールを挙げた時にインタビューをした。シーズン50ゴールを挙げたのは60ゴールを挙げたコルサ(現ラシンのレギュラーMF)以来だったからね。その時にカナーレスが、“どんなポジションでもいいからトップチームに上がりたい”と言っていたのを今でも覚えているよ」