チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
大勝と大敗。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byAFLO
posted2009/03/16 00:00
バルセロナは特異なクラブだ。伝統的にスキが多い。名門、強豪といわれるチームらしからぬ腰の軽さがある。
’08-’09シーズンの決勝トーナメント1回戦。バルサはリヨンと対戦した。初戦のアウェーは1-1。第2戦のホーム戦はすこぶる好調で、アンリ、メッシ、エトーのゴールで、前半43分までに4-0のスコア。リヨンを圧倒していた。
バルサ強し。そう思った矢先だった、たちどころに失点を喫したのは。4ゴールの素晴らしさに、自ら酔いしれている間に失点した。そんな感じだ。さらに、後半の開始早々にも失点を喫し、4-0だったスコアは、たちまち4-2に変化した。
結局、第2戦の最終スコアは5-2。圧勝に変わりはないが、4-0を5-2にするところに、バルサらしさを垣間見ることができる。
’93-’94シーズン、バルサは、国内リーグでデポルティーボと激しい首位争いを演じていた。最終戦を迎えた段階で、首位に立っていたのはデポル。バルサは最終節で逆転し、劇的な優勝を遂げたのだった。
時の監督はクライフ。ドリームチームと呼ばれていた頃のバルサである。その2シーズン前には、チャンピオンズカップも獲得していた。
バルサ強しは、このシーズンもスペイン国内に限った話ではなかった。土曜日の夜、逆転優勝を飾ったバルセロナは、その4日後の水曜日、ギリシャのアテネでチャンピオンズリーグ決勝を戦うことになっていた。
相手はカペッロ率いるミラン。下馬評ではバルサ有利が8割方を占めていた。
しかしバルセロナは、そこでミランに0-4のスコアでまさかの大敗を喫した。理由はわかりやすい。もっともらしく言えば、コンディションの差となる。早くから現地に乗り込み、調整を入念にしていたミランに対し、バルサが現地入りしたのは月曜日。土曜日の深夜優勝を決めると、彼らは、日曜日の朝まで、逆転優勝の余韻にひたり、どんちゃん騒ぎに明け暮れたのだ。
水曜日にアテネで欧州一をかけたビッグマッチが組まれていれば、国内リーグ優勝の祝勝会は先延ばしするのが一般常識だ。バルサはそれに従わず、下馬評で大きく勝っていた相手に、まさかの大敗を喫した。キックオフの瞬間から、両者の動きに明らかな差を見て取ることができた。
欧州一を逃した最大の原因が「喜びすぎ」とは、なんとおめでたい話だろう。
バルサがまだ、欧州一のタイトルを2回しか獲得していない大きな原因だ。勝利に対してバルサほど貪欲でないビッグクラブも珍しい。
むしろ僕は、バルサのそういうところにシンパシーを抱く。欧州で一番大きなクラブなのに、どこか子どもじみている。笑える要素がこのクラブには詰まっている。多くのサッカーファンが「世界で2番目に好きなクラブ」と表現するのもわかる気がする。
マイクラブを除けばナンバーワン。バルセロナは世界一の人気クラブだ。だが、お人好し度でも世界一では、プレミア勢にやられそうな気がする。
プレミア勢を叩いて優勝する可能性は低い。僕はそう思うのだが。