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バンクーバー五輪の敵は“音”だった!?
日本選手を妨害した会場トラブル。
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2010/02/18 21:20
大会6日目の2月17日は、スピードスケート会場のリッチモンド・オリンピック・オーバルへ取材で出かけることに。
500mで銀メダルを獲得した長島圭一郎が1000mに登場することになっていた。
その前々日。長島にとって五輪での初のメダルとなった男子500mは、トラブルのなかでの表彰台だった。
整氷車の故障が2台立て続けに起こり、五輪のパッケージが施されていない真っ白な3台目が登場する始末。スタートの準備を万端に整えていた一部の選手たちは、結局1時間以上も待たされることになった。
もし中断されることなく長島や加藤が1回目を滑れていたらメダルの色は金と銀だったかもしれない……。そんなことを考えながら男子1000mが行われる会場に入り、7組に登場する長島を待っていると、果たして、1000mでもトラブルは起きた。
再びトラブルに見舞われた長島圭一郎は1000mで不発に。
「フライングの笛の音が聞こえたと思った」
スタートした長島が、フライングがあったと判断してコース上で止まっていた。一方、同走であるロシアのドミトリー・ロブコフはそのまま滑り続けている。半周を過ぎたところでロブコフもようやく気づき、スピードをゆるめる。電光掲示板のタイムが最後までむなしく計測していたが、やがて消された。
単なるフライングではなさそうだ――会場がザワザワし始める。
何事かが起こったようだが判断のつかない観客席では、場をもたせるためのウェーブが始まった。体を冷やさないように、集中を切らさないようにとウォーミングアップを続ける選手たちをよそに、焦れた観客たちによるウェーブが何周も回り続ける。
協議の結果、フライングではなかったという判断が審判団によって下された。
観客の誰かが故意にフライングの警告に似た笛を吹いたのか、応援の音を長島が聞き間違えただけなのか、真相はわからない。仮に笛が吹かれていたとしても、故意によるものでないことを信じたいし、応援が邪魔だということではないのだが。
言い訳を一切しなかった長島だが……表情は硬い。
結局、第10組の後からの仕切り直しとなったが、ここでもスタートまでの時計表示が混乱するというトラブルで、またもや数分間の中断となった。すかさずウェーブが巻き起きる。もはやこの会場での中断に観客は慣れっこなのだ。
結局、3度目の正直でようやくスタートできた長島だが、後半みるみる失速し、下から2番目の37位に終わった。
「けっこうキツくて、足が止まってしまった。自分に力がなかっただけです。トラブルを乗り越えられなかった自分の力不足」
淡々と、しかし少し悔しそうに長島は自らの滑りの内容を振り返った。同組で滑ったロブコフがレース後に審判団の判断ミスとして厳しい発言を繰り返したのと対照的な風景であった。
「こんな形で尻すぼみに終わってしまってすみません」
そう言い残して取材記者たちのもとを去っていく長島の表情は暗く、銀メダル獲得の一昨日とは別人のようだった。