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対談:激動の欧州リーグ、今年の見所
~リーガ・エスパニョーラ&プレミアリーグ篇~
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byGetty Images(L),Man Utd via Getty Images(R)
posted2009/08/29 08:00
再び銀河系軍団をつくり上げたレアル・マドリーは“白い巨人”の威厳を取り戻せるのか? 昨季無敵を誇ったバルセロナの快進撃は続くのか? ビッグネーム放出により戦力低下が懸念されるプレミア勢の勢力争いは?
今シーズンの動向を、ともに豊富な現地取材経験を誇る横井伸幸、原田大輔の両ジャーナリストの対談から展望する。
対談のスタートは、総額約350億円もの資金を投じて激動の移籍市場を演出したレアル・マドリーの話題から。フロレンティーノ・ペレス会長の下で完成しつつある“第2次銀河系軍団”は、ズラタン・イブラヒモビッチを獲得した昨季の3冠王者、バルセロナから王座を奪還できるのか。
念願のリーガ・エスパニョーラ参戦を果たした中村俊輔は、エスパニョールでも輝けるのか。話題はスペイン人の意外なサッカー観にまで及ぶ。
1969年愛知県生まれ。90年代半ばからの約8年間をバルセロナで過ごしたサッカージャーナリスト。欧州メディアに豊富な人脈を誇る
横井 レアル・マドリーが今夏の移籍市場で費やした金額は約350億円ですか……。ペレス会長が就任した時点で何となく予感していましたが、途中までは正直、「やり過ぎだろう」と思っていました。ただ、シャビ・アロンソの獲得に関しては例年とは異なりますね。
原田 同感です。ペレス会長が最初に“銀河系”をつくり上げた時期は、とにかく前線の選手ばかりを補強していましたからね。当時と比較すると、今回はバランスを考えて補強しているのかと。
横井 もちろんメンバーがガラリと変わるわけですから、リスクは大きいですよね。ラウールを筆頭とする既存戦力とのバランスが崩れる危険性があるし、チーム内のコミュニケーションを一から築き直す必要がある。
原田 監督がマヌエル・ペジェグリーニに代わったことを考えれば、レアルはあらゆる面で一からスタートしなければならないでしょうね。たとえ豪華なメンバーをそろえても、この状態からタイトルを目指すのは難しい。ちなみに、現地のサポーターの反応はどういった感じなのでしょうか?
横井 マドリードでは「アイツも来た! コイツも来た!」という感じで、相変わらずのお祭り騒ぎです(笑)。マドリードだけではなく、スペイン人は細部を分析するような目では試合を見ないので、現時点では豪華なメンバーを見て楽しむのが主流ですね。つまり、勝利至上主義のイタリアとはまた別の意味で、内容よりも結果を評価する傾向にある。で、3~4試合を消化した後で必ず「あれ!?」となる。
イブラヒモビッチが加入したバルサの敵はカレンダー!?
1977年東京都生まれ。元『WORLD SOCCER GRAPHIC』編集長。現在はサッカー専門編集会社『S.C.Editorial』を設立し代表取締役
原田 一般的にスペインのサッカーに対しては、勝利よりも「スペクタクルで面白い」という内容の方を重視する声が多いと思うのですが、実はそうではないと?
横井 全体的な傾向としては間違っていないと思います。ただ、4、5年前まではそういう本当に攻撃的でスペクタクルなサッカーを展開していたのはごく限られたクラブだけでしたから。それが、スペイン代表がユーロ2008を制したことで大きく変わったんですね。昨季は下位に低迷するクラブにも攻撃的なスタイルが浸透していて、どの試合を見ても本当に面白かった。その傾向はもちろん今季も続くはずなので、今のスペインサッカーは本当の意味で攻撃的かつスペクタクル、見ていて面白い内容重視の試合が多いと言えると思います。
原田 昨季、そういったスペインサッカーの魅力を体現したバルセロナは最小限の補強にとどめましたね。ズラタン・イブラヒモビッチの加入は、攻撃バリエーションを増やすという意味では非常に大きな意味を持つと思います。リオネル・メッシとティエリ・アンリのスピードに、イブラヒモビッチの高さとパワー、テクニックが加わることで一気に幅が広がるのではないかと。
横井 バルセロナにとっての唯一の敵はカレンダーだと思います。年末にアブダビで行われるクラブW杯に参戦しなければならないし、1月のアフリカ選手権開催中にはトゥーレ・ヤヤとセイドゥ・ケイタを欠くことになる。
原田 イブラヒモビッチもそうですが、メッシやイニエスタなど、カギを握る選手は故障が多く、1年を通じてフルに働けるとは思えない。仮に彼らの離脱とアフリカ選手権が重なると大崩れする可能性も出てくる。今季に関しては、選手層の薄さがどうしても気掛かりですね。