セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
満男と大黒を後押しするジーコの教え。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2006/09/08 00:00
夏季移籍市場も大詰めを向かえた8月下旬、W杯で日本代表だったMF小笠原満男とFW大黒将志がイタリアのクラブと契約を交わし、再びセリエAに日本人選手が誕生した。5月初旬に表面化したセリエAでの不正問題がイタリアサッカー界にネガティブな印象を残していただけに、カターニャに期限付き移籍した若手FW森本貴幸に加え、新たに日本人2人の加入は予想外だった。
小笠原は、鹿島アントラーズ時代の僚友FW柳沢敦の古巣にあたるメッシーナに入団。会見で「ヤナギから『試合に出られなくて苦しんだ』と聞いたけど、ボクはここに来た以上試合に出たい。(出場)できるかは自分の努力次第」と意欲を口にした。一方、フランスのグルノーブルからトリノへ移籍した大黒も「チャレンジしに来たのだから失うものはないし、恐れるものもない」と新天地で再起を誓った。
驚いたのは2人が「イタリアで点をとる」と、イタリアの固いディフェンスに勝負を挑む宣言をしたことだった。不完全燃焼に終わったW杯後、雪辱への強い思いを秘めてイタリアの地を踏んだ2人だけに、そう簡単にはセリエAに降伏しない「闘志」も共通していた。
実はこれ、ジーコ日本代表前監督の教えだという。ジーコはかつての門下生である小笠原と大黒に「イタリアは最初が肝心。闘争心をむき出しにしてゴールを狙え」という言葉を授けたのである。実際「知られていない」2人は、チーム合流から間もない練習試合で気迫のこもったプレーでチームを牽引するなど、手厳しいイタリアメディアをうならせた。
大黒は激しいプレッシャーをかけて相手の動揺を誘う、つまり相手にスキを作らせる工夫を凝らしたプレーが監督に気に入られた。「FWだからといって前線でボールを待っていても意味がない」と、グルノーブル時代から再三口にしていた大黒は、自身が得意とするプレッシングサッカーで合格点を奪い取った。事実上のデビューとなったジェノアとの親善試合でも、競ったあとのこぼれ球をいかに決定機に結びつけるかという「泥臭いプレー」に終始した。
日本人FWは、欧州では開花しないというジンクスがある。これはかつてのFWがエレガントなプレーにこだわりすぎたからといえるだろう。格好いいプレーだけでは結果は生み出せない。「どのポジションでもどんな形でもゴールを決める」というイタリア代表でACミランのインザーギの薫陶を受けて、大黒は格好良さへの執着を捨てた。それが新天地で「吉」と出た。
小笠原も負けてはいない。一連の不正問題で打撃を受けたメッシーナは、チーム目標であるセリエA残留に相応しい陣容も整わず開幕を迎えることとなったが、数少ない戦力補強の中で唯一の買い得は何を隠そう小笠原だと言われている。不足していたプレースキッカーも、小笠原の入団で補充できた。得点能力もあり中盤でゲームを作れる満男は、初日から指揮官の目に留まり、懸念されていたチームの完成度は高まったという見方もある。
先のドイツ大会ではふがいない日本の戦いぶりに痛烈な批判を受けた彼らだが、かつてイタリアで「英雄」と名声を轟かせたジーコの「スピリッツ」を胸に、予想以上の活躍を見せてくれるかもしれない。