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石井慧 結果がすべての男。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2008/08/27 19:00
「負けたけど、頑張ったね」
「結果は出なかったけど、いいプレーをしていたよ」
スポーツをめぐって、こんな会話がされることは珍しくない。
だがこの男にとっては、「結果がすべて」である。決勝戦後のミックスゾーンで、石井慧はこう言い放った。
「だって決勝でいい試合していても、残り10秒で逆転されたら意味ないじゃないですか」
塚田真希とトウ・ブン(中国)の名勝負を見た直後だけに、なんだか複雑な気分になる。
結果を追い求める男、石井は、初出場、21歳にして100kg超級王座に就いた。
危なげない優勝だった。初戦から内また、大内刈り、横四方固め、上四方固めとすべて一本勝ちで決勝に勝ち進んだ。積極的に前に出て圧力をかけ、技を繰り出しては得意の寝技に持ち込む。試合ぶりに隙はなかった。
決勝で迎えたのはタングリエフ(ウズベキスタン)だった。
試合が始まる。前へ出て技を掛けていく。準決勝までと似ていて、だがどことなく違和感があった。
「はい。決勝は結果だけ考えましたから。相手のいいところを出させないようにしようと考えてました。それが人間じゃないですか。見ている人はつまらないでしょうけど」
つまりは一本を獲るために技を繰り出すのではなく、優勢を保ち、巧妙にペースを握る戦いに徹していたのだ。
タングリエフはそれに抗することができず、2分19秒と4分8秒に指導を受けた。試合終了。静かな圧勝だった。
それにしても、五輪で優勝して言う台詞がふるっている。
「高校時代に世田谷学園に勝ったときのほうが嬉しかったですね」
そう真顔で言うのである。
新王者、石井の経歴をたどれば、華麗な戦績が並ぶ。2004年の講道館杯100kg級で史上3人目の高校生王者となり、'06年には全日本選手権を19 歳4カ月で制した。日本が誇る名柔道家・山下泰裕がもつ最年少優勝記録を破るものであり、しかも決勝の相手は鈴木桂治であった。
昨秋、100kg超級に転向。「最重量級こそチャンピオン」というかねてからの考えを実行したのだ。
転向後、嘉納治五郎杯、欧州での国際大会などすべての大会で優勝。今年4月29日の全日本選手権でも優勝し、文句のつけようのない成績で、井上康生、棟田康幸ら第一人者との北京五輪代表争いを制したのである。
しかし、石井はあまり評価を得られずにいた。経歴からすれば井上康生や鈴木桂治並みに注目されてもおかしくないにもかかわらず。
推測すればこうなる。