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谷本歩実 JUDOではなく柔道で。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJMPA
posted2008/08/27 18:57
1分20秒がすぎた。ドコスが大内刈りを仕掛けてきた。それをかわすと、自然に体が反応し、内またを繰り出していた。ドコスの体が宙に舞い、一回転した。
「イッポン!」
主審のコールが聞こえた。両手を振り上げると何度も飛び跳ねた。ドコスは茫然と畳に座ったままだった。ようやく身を起こしたライバルに一礼。さらに四方のスタンドに向かってお辞儀をすると、コーチに駆け寄り抱きついた。涙が止まらなかった。
すべての試合が終わった。レッドカーペットが広げられ、表彰台が運ばれる。森山直太朗の『さくら』が流れている。
メダルと花束が授与されると、これ以上はないほどの笑顔で、右手でメダルを、左手で花束を掲げた。
国歌演奏。するすると上っていく国旗をじっとみつめた。不意に背後から、国歌を唄う応援団の声が聞こえてきた。その瞬間、再び涙があふれた。自分はどれだけ多くの人に支えられてきたのかを感じとった。
アテネに続きすべての試合を一本勝ちで制した谷本歩実は、2度目の五輪について問われると、こう語った。
「夢の舞台で不思議な気持ちでした。自分の柔道を貫けたのがなにより嬉しかった」