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鈴木隆行 男の器。
text by
高川武将Takeyuki Takagawa
posted2006/11/23 22:46
──戦力外とされてるそうだけど?
そう聞くと、鈴木は、殊更表情を変えることもなく淡々と言った。
「俺は何の衝撃も受けていませんけどね。何も見ていない段階でそう言ったということは、完全に度外視されてる。何か理由があるわけで、そこを穿り返しても解決しないとわかっているから。普通、選手としては移籍先を探さなきゃ拙い状況でしょ。でも、直接言われたわけではないし、練習も普通にやれているしね。まあ、辞めろと言われたら一番手っ取り早い。でも、本当に何とも思ってないんです。むしろ、これでもし試合に出て、それを覆すような結果を出せたら最高に気分がいいだろうなって思うくらいで」
──でも、キレそうになったことはない?
そう水を向けると、鈴木は「……聞かないでくださいよ……」と薄く笑い、語り始めた。
「それはさ、ふざけんな、バカ言ってんじゃねぇよって思うことは腐るほどあります。でも、そんなこと、生きていれば誰にでもある、当たり前のことだと思ってる。
確かに今の状況は、いくら調子が良くても、仮に俺がロナウジーニョみたいなプレーをしたとしても試合には出られないわけよ(笑)。これって、サッカー選手としては致命的だよね。可能性ゼロだもん。でも、そういう中で、自分が試されているということでしょう?― いくら頑張っても試合に出られないわけだから、練習だってサボれるし、適当に生活してもいい。でも、そうしてしまったら、全ての意味がなくなる。こういうときこそ、常に必死に、何も考えずにやらないといけない。逆に涼しい顔して一生懸命やってやるって……でも、難しいですよ、ホント。
だって、目標がボヤけちゃってるんだから。今の自分には、気持ちを切らさないで、コンディションを維持することが非常に大事なことだとわかってはいるけど、毎日気分も違うし、精神のコントロールができない時もある。筋トレ一つするのもキツくて、いつもならここで追い込めてるはずなのにできないとか。そういう時に、やっぱり俺は弱かったのか、と。
今までいろいろな経験をして作り上げてきた自分は強い人間だと思っていたけど、こっちに来て、実際は、弱い人間だったとわかって、凄くショックだった。今まで恵まれた環境にいて強いと思い込んでいただけだった。
でも、それもこっちに来なければわからなかったことでね。前に進んで行こうと思うから、弱さを知ってショックを受けるわけで、そういう自分がいるから今の状況も無駄じゃないと思える。ここでいい加減にやってしまったら得るものはない、ゼロになる。それが逆にモチベーションにもなる。やっぱり人間、経験が大事だなってつくづく思う。それ以外にないでしょ、自分を成長させるには」
──逆境の方が自分を鍛えられる。
「そうでしょう?― だって、いい時って何も考えないですよ。でも追い込まれた状況の時って、いろいろなことを考えるんです。苦しくてさ。何が悪いんだろう、どうしたらいいんだろうって。いろいろなものが見えてきて……そういうときこそ逆に、生きてる実感が湧くよね。不思議と」
鈴木はそこまで快活に話すと、ステーキを切り分ける手を休めて、ポツリと言った。
「何かね、ずっと、そんなことの繰り返しだと思うんです、俺は」