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鈴木隆行 男の器。 

text by

高川武将

高川武将Takeyuki Takagawa

PROFILE

posted2006/11/23 22:46

 首位争いのダービーだというのに、スタンドはガラガラで、サポーターの発する爆竹の音だけが空しく響いていた。

 レッドスターの本拠地、マラカナスタジアムは、セルビア共和国の首都ベオグラードの中心部から、小高い丘を上った中腹にある。

 10月21日、首位レッドスターと2点差で2位につけるOFKベオグラードとの一戦を見ていた。退屈な試合だった。ボールを奪い敵陣に入っても、お互いこれといったアイディアもなくシュートに持ち込めないまま相手に奪われる。テクニックもスピードもない。最後はセットプレーからの1点でレッドスターが辛勝したものの、ユーゴ時代に『東欧のブラジル』といわれた姿は見る影もなかった。

 そしてこの日もまた、鈴木はベンチにすら入れなかった。

 「今から行きますか!」

 電話の向こうの声はやけに弾んでいた。

 試合が終わり、鈴木の携帯に挨拶の電話をかけ、25日まで滞在するからその間に食事でも……と言うや否や、こう返ってきたのだ。

 スタジアムから程近い鈴木の自宅マンション前で落ち合い、我々はサヴァ川のほとりにある瀟洒なセルビア料理店に入った。夜の9時を過ぎていたが、金曜日ということもあり、店内は賑やかだった。

 「どうでした試合?」

 乾杯のビールを一口呑むと、鈴木はそう聞いてきた。表情は思いのほか明るかった。

 試合はクラブハウスのテレビで見ていたという。昨季はもっと良いサッカーをしていた、クラブは財政難のため主力6人を放出し質が低下した、上位2チーム以外は、どこもレベルは大差ない……。そんな話をした後、自嘲気味に笑って言った。

 「ま、このレベルで、試合に出れない自分も駄目だけどね!」

 そして、静かに続けた。

 「今までとは違う状況ですから……」

 雪が降り積もるセルビアへやって来たのは今年1月のことだった。'95年の鹿島入団以来、ブラジル(CFZ)、市原、川崎F、再びブラジル、ベルギーのゲンク、ゾルダーと、レンタル移籍を繰り返してきた。12回目となる今回は、初の完全移籍である。ゲンクではそのほとんどが途中出場だったが、それでも機会は与えられていた。

 レッドスターでも昨季は6試合に出場、4月のセルビア杯・ラドニツキ戦では、初めて先発フル出場し2ゴールを挙げてもいる。ところが今季はCL、UEFA杯を含め、ここまで公式戦16試合全てに出場がないばかりか、ほとんどがベンチ外という憂き目に遭っていた。

 今季から就任したバイエビッチ監督は、シーズン当初から鈴木を戦力外とみなし、チャンスさえも与えられない、「飼い殺し」状態に置かれていたのだ。

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