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<美しき孤高の滑走者> 岡崎朋美 「38歳、五度目の正直」 ~特集:バンクーバーに挑む~
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byKenta Yoshizawa
posted2009/12/19 08:00
「人生に悔いなし」と言い切れる勢いと根性で滑りたい。
バンクーバー五輪代表は、12月28~30日に開催される代表選考競技会を経て最終決定する。岡崎が代表となった場合、女子500mで最大のライバルとなるのは、37秒02の世界記録を持つジェニー・ウォルフ(ドイツ)だろう。昨シーズンのワールドカップ13戦中10戦を制した、抜群の安定感を誇る女王だ。彼女の牙城を崩すのは容易ではないが、2位以下は混戦模様。世界歴代2位に相当する37秒21の自己ベストを持つ王北星(中国)や吉井小百合(日本電産サンキョー)も含めて5、6人が同レベルの力を持っている。だからこそ岡崎の持つ、ピンポイントを外さない勝負強さが最大の武器になりそうだ。
岡崎は、富士急スケート部の公式サイトで「バンクーバーオリンピックでは『人生に悔いなし』と言い切れるくらいの勢いと根性で皆様を引き込みたいと思います」と、壮大な決意を述べている。
「すごいでしょ(笑)。ただ、今のところ、スケートに関しては悔いがないんですよ」
スピードスケートは過酷な競技である。シーズン中はレースのために国内外を転戦し、シーズンオフも毎日のように厳しい練習で身体をいじめ抜く。いまだに立ち向かえる原動力を聞いたところ、あっけらかんと答えた。
「確かにトレーニングはものすごくつらいんですけど、根本的に体を動かすことが好きなんでしょうね。それに、ミスをしないでちゃんと滑れたときのレースは、必ず結果が出るんですよ。いい滑りができれば今の年齢でも自己ベストがどんどん出るので、やめられない。やめる理由が見つからないんです(笑)」
狙うは“五度目の正直”。トリノのリベンジなるか?
同世代が次々と引退していく中、ともに滑るのは若い選手が多くなり、時には親子ほど年齢が離れた選手と戦うこともある。昨季の前半戦は遠縁にあたる高山梨沙(駒大苫小牧高1年)と一緒に海外を転戦した。
「若い子と一緒にやるのはうれしいです。いい選手がどんどん出てきてもらわないと、スケート界も終わってしまいますからね。疲れ知らずでガンガンいってくれないと困る。私も一緒に彼女たちとがんばろうという気持ちです。年が上だからといって、恥ずかしいことは何もありません。
ただ、私にもやらなきゃいけないことがまだまだある。狙った大会では遠慮なくポンと前に行きますよ。そう簡単には負けません。バンクーバーではトリノのリベンジをしないといけないですからね」
38歳にして岡崎の向上心は衰えることなく、さらに進化を続けていた。狙うは“五度目の正直”。バンクーバーでは集大成の滑りを見せて、私たちを魅了して欲しい。
岡崎朋美(おかざきともみ)
1971年9月7日、北海道斜里郡清里町生まれ。釧路星園高校卒業後、'90年富士急行に入社。'94年、リレハンメル五輪500m14位、'98年、長野五輪500mで日本女子短距離初の銅メダルを獲得。'02年、ソルトレークシティ五輪500m6位。'06年、トリノ五輪500m4位。W杯通算12勝。'07年11月に結婚し、現姓は安武。163cm、57kg