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FC東京監督 城福浩は理想を説く。 <一冊のノートが組織を変える> 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2009/09/11 11:30

FC東京監督 城福浩は理想を説く。 <一冊のノートが組織を変える><Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

「選手の個性を出せるのは、選択肢があるとき」。

 といっても、それまでのありかたと真逆のスタイルが、簡単に根付くわけもない。チームの状態も一定ではいられない。選手のコンディションもあれば、メンタル面も作用する。まるで、一つの生き物であるかのように。ぶれない方針があっても、チームの状態を見て、選手起用、ポジションの変更など修正を図る。

「やりたいサッカーをやるということは、どう考えても時間がかかります。でも、時間をかけるためには、自分の時間をまず確保しなければいけないんです。どんな理想を追い求めていても、10連敗すれば、間違いなくクビになるでしょう。自分の時間はなくなるわけです。だから目の前の結果もまた、追い求めなければいけません」

 修正の最大のポイントは、「いかに選手の最大公約数を出させるか」であると言う。

 面白いのは、今シーズンに入り、選手から「ピッチでは自分たちに判断が任されている」という言葉が聞こえるようになったことだ。チームとしての方向付けは練習でも細かくなされているにもかかわらずだ。

 城福はこう説明する。

「サッカーはすべてが変化していく競技で、パターン練習だけで勝てるわけではない。パスを選択するもシュートを選択するもボールを持った選手が主体となって判断する。ただ、ボールを持ってない選手が、持っている選手に対して絶対にやってあげないといけないことをずっと言い続けているんです。それはボールを持っている選手にいくつかの選択肢を作り上げること。いちばん選手の個性を出せるのは、選択肢があるときなんです。最初から、選手の判断だから、個性だからといってなんの方向付けもなければ、かえって選手の個性は出せなくなる。選択肢がないんだったら、得意だろうが不得意だろうがドリブルするしかしようがないんですよね。シュートがうまかろうがへただろうが打つしかなくなる。俺が特徴を出せるのも選択肢があるからだ、みんなが選択肢を作ってくれてるんだ、ということを理解しなければいけないんです」

 方向がはっきりしたからこそ、選手も輝けるのではないか。爆発的な得点力をみせる石川直宏しかり、前へ積極的に出る守備と後方からの組み立てを実現する新たなディフェンダー像を見せる今野泰幸しかり。

「将来後悔しない」ため、消極的な思考はいらない。

 こうして1年と半年が過ぎた今、「自分たちのサッカーができる時間が長くなってきた」と言う城福にあらためて問う。ぶれずに、信念を保ち続けられるのはなぜか。

「僕は尻に火がつかないとやらない、やらないといけないと思ったときじゃないとやれない凡人です。せっぱつまったら誰でもやると思いますから」

 と苦笑しつつ、続けた。

「U-17でもそうでしたが、どういうサッカーでも必ず何か言われるわけだし、いつか必ずクビになる職業ですよね。何を選択しても保証もない。その中で消極的な思考で負けたとしたら後悔してもしきれない。だから今も、自分は何のためにここにいてやらせてもらっているのか、将来後悔しないこととは何なのか、いつも反すうしながらやっています」

 ボールも人も動くサッカー、それだけが勝利にいちばん近いわけじゃない。そういう考え方もあるはずだ。だが、FC東京が低迷から脱し、結果を少しずつ積み重ね、観る人を惹きつけるようにもなったのは、確固とした信念をもち、ぶれずに言葉と姿勢で指し示してきた指揮官あればこそである。

 これからもきっとチームに波は訪れる。その中でいかに理想を実現していくのか。楽しみである。

城福浩 (じょうふくひろし)
1961年3月21日、徳島県生まれ。早稲田大学卒業後、富士通に入社しサッカー部で選手、指導者として活躍。のち、招聘を受けFC東京へ。'06年、U-17日本代表監督としてアジア選手権優勝。'08年、FC東京監督に就任

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