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ファーガソン 「“ロナウドマネー”を遣わなかったワケ」 ~特集:マンU最大の謎~ 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byAri Takahashi

posted2009/08/26 11:30

ファーガソン 「“ロナウドマネー”を遣わなかったワケ」 ~特集:マンU最大の謎~<Number Web> photograph by Ari Takahashi

ウェイン・ルーニーには真のストライカーとしての活躍が望まれる

エースの放出により、120億円という莫大な資金を得たマンチェスターU。
しかし、大型の補強もなく今季を迎える監督の狙いとは――。

 世界でも最高級の品と引き換えに大金を掴んでおきながら、手を出したのはタダ同然の「キズ物」と不当に高い「B級品」。この夏のマンチェスターUの補強には手厳しい声があがった。クリスティアーノ・ロナウドの売却(約120億円)を受けて獲得した“即戦力”は、マイケル・オーウェン(移籍金なし)とルイス・アントニオ・バレンシア(移籍金約27億円)だけだったのである。

なぜベンゼマのような「一級品」を買わなかったのか?

 アレックス・ファーガソン監督が抱えていた補強予算は、フレイザー・キャンベル(サンダーランド入り)の売却益(約5億円)や、カルロス・テベス(マンC入り)の完全移籍用に割かれていた金額(約38億円)を合わせれば160億円を超える。当然、カリム・ベンゼマ(レアル入り)のような正真正銘の「一級品」が購入対象と噂された。

 にもかかわらずファーガソンは、7月初旬の時点で「これ以上は買わないと思う」と公言した。しかも、満足気な表情で。実際、その後1カ月間での目ぼしい動きは、20歳のガブリエル・オベルタンと16歳のポール・ポグバの獲得(計5億円弱)という、将来への“投資”のみ。巷では、約1050億円にも上る負債(4月発表)が補強予算を圧迫しているのではないかとの憶測も飛び交った。

 たしかに、プレミアシップの現役王者はリーグの借金王でもある。移籍金収入から60億円ほどが利息の返済に回されることも事実のようだ。しかし、他クラブならまだしも、マンUのファーガソンにはチーム作りに関する絶対的な権限がある。指揮官が「新たな大物が欲しい」と主張すれば、経営陣は、負債総額に比べれば微々たるものでしかない利息の返済枠を、予算に再編入することにやぶさかではなかっただろう。ファーガソンは、どうしても欲しければ絶対に買う。その証拠に、軍資金が限られていた5年前の夏には、翌年の予算に手をつけてまで、まだ18歳だったウェイン・ルーニーを約30億円で手に入れているではないか。

異例の小規模な補強はルーニーへの“罪滅ぼし”だ。

 そして、このルーニーこそが、世間の目には不可解と映るマンUの動きを解明する鍵となる。3年前からロナウドに伸びるレアル・マドリーの触手に悩まされ、1年前には当人から移籍を懇願されていた監督の頭の中には、以前からロナウド放出後の青写真があったに違いない。だからこそ、レアルからFAXで正式なオファーが届いた2、3時間後に売却を決めることができたのだ。思い返してみれば、ファーガソンは、ロナウドの去就については「いつかは選択を迫られる」としながらも、ルーニーについては「クラブの将来」と言い続けてきた。

 近年のルーニーは、チームの看板かつ最大の得点源へと化けたロナウドの、言わば犠牲者だった。ロナウドの得点力を活かすために、またロナウドの守備意識の薄さを補うために、万能で献身的なルーニーは、アウトサイドでのハードワークを強いられる試合が次第に増えていった。だが、今シーズンは違う。「監督が決めることだけど」と前置きしながらも、本人が「自分のベストポジション」と言い切るセンターFWとして、前線の中央を主戦場にすることが許されるのだ。ここ数年のイングランド代表で、ルーニーの物足りなさが指摘される度に「責任を感じている」と認めていたファーガソンにとっては、便利に使ってしまったFWへの“罪滅ぼし”の始まりと言ってもよい。

【次ページ】 すべては“主役”ルーニーありきのチーム編成。

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