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中京女子大学レスリング部――伊調千春、吉田沙保里、伊調馨 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

posted2004/08/12 00:00

 「僕はもうほんとに選手を育てるために一生懸命で。そこに集中して。でも妻がね、あるとき、『私は賄い人じゃない』と言って。今も教えにきてくれるし、いい関係ですけどね」

 妻との離婚を、苦笑しながら語った。

 レスリング部の基本的なスケジュールは、朝練習が午前8時から1時間。練習が終わるとシャワーを浴び授業へ。授業のあと、夜は午後5時から2時間半ほど。さらに、多くの部員は朝1時間ほど、夜も居残りで自主練習を行なうという。休みは週1日。

 単純に考えれば、1日のうち自由時間は11時間。洗濯や掃除もあるから、遊ぶ暇などは到底ありえない。

 「いやあ、老けてみられますね。ほんとですよ!― 家で洗濯物干していたら、保険の勧誘の人が来て『若奥さま』って言われました(笑)。自分でなんでもやるから、しっかり見られるのかも」と笑うのは、伊調馨だ。彼女は、八戸のクラブで5歳からレスリングを始めた。中3の夏、全国大会で栄に声をかけられ、練習に1度参加して中京女子大附属高校への入学を決めた。

 「人数が多かったし、練習内容もいいなあと。千春が先に京都の網野高校に行っていたから、自分も県外に出るんだって思っていましたし」

 ところが。

 「最初は強気で、『平気だよ』ってお母さんに言って出てきたんですけど、3日で帰りたいって泣きました。練習はきつかったし、下っ端でついていくのが精いっぱいだったし、監督は殴るし蹴るし。怖くておびえていましたね。いやあ、厳しかったですよ。今はだいぶ丸くなりましたけどね」

 大学から入学の吉田沙保里も言う。

 「人数が多いし、世界チャンピオンの先輩もいるから練習の中で強くなれそう、と決めたんですけど、入ってみたら、なんでこんなに言われるんだろう、怖いんだろう、と思いましたね。監督、竹刀も手にしていましたから。朝練も大学になって初めて経験したからきつかった。今になって、期待しているから言ってくれてたんだって分かりましたけど(笑)」

 これだけタイトな生活、たまには遊びたい、って気持ちにはならないものなのか。

 「遊ぶ時間が長い子もいるだろうけれど、まわりには部活している子、バイトしている子、それぞれの道を歩んでいる。自分はこのレスリングで生きていく、生きてきたから、羨ましいとは思っていない。むしろ、羨ましいと思われることもあるだろうし」

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