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【Podcast】「こんな展開のオリンピックは記憶にない…」鍵山優真、佐藤駿がメダル獲得も、絶対王者・マリニンが8位。フィギュア男子シングルの現場で何が起きていた?《野口美恵のミラノ現地秘話》

波乱の展開の中、鍵山が銀、佐藤が銅を獲得した
 長年フィギュアスケートを取材し、選手とも信頼関係が深いライター野口美恵さんをゲストに、取材の裏話やホットなトピックをマニアックに解説してもらうポッドキャスト番組「リンクの残響」。今回はミラノ・コルティナ五輪特別編をお届けする。
 男子シングルは現地時間の2月10日にSPが、13日にFSが行われた。日本のエース・鍵山優真は銀メダル、佐藤駿が銅メダル。しかし「絶対王者」とも言われたアメリカのイリヤ・マリニンにまさかのミスが相次ぎ8位となるなど、波乱の展開となった。現地で取材するライターの野口美恵さんに選手のコメントを交えての総評をうかがった。

「こんな展開のオリンピックは、なかなか記憶にもないですね」。

 五輪開幕前に収録した男子シングル展望では、「日本の3選手ともメダルチャンス濃厚」「最終グループはマリニン選手対日本3選手となるのでは」と話をしていたが、SPから予想を裏切ってくる展開。マリニン選手1位、鍵山優真選手2位、アダム・シャオ・イムファ選手(フランス)3位と実力者がトップ3に。佐藤駿選手は9位、三浦佳生選手はジャンプのミスが響き、まさかの22位と出遅れた。

 三浦選手は報道にもあった通り、現地入りしてから靴が壊れるトラブルに見舞われた。しかし野口さんは「最終的には靴のせいじゃない」という。「もちろんスペアの靴も持って行っていましたが、オリンピックという特別の場所に行く、その時に一番いい靴で行きたいと思いすぎるために、こだわってしまったのもあると思います」。それまで履いてきた馴染みのある靴なら、4回転ループも跳べるはず……オリンピックへの強い思いあってこその選択だった、と野口さんは話す。

フリーでは「彼らしい」といえる演技を見せた三浦選手 ©️Asami Enomoto/JMPA
フリーでは「彼らしい」といえる演技を見せた三浦選手 ©️Asami Enomoto/JMPA

 さらに団体戦が先というスケジュールも、難しさがあった。日本代表は五輪開幕前にミラノ入りしたものの、三浦選手は団体戦の出場はなく、応援のみ。「周りがメダルを取っている中で、自分だけまだ……という気持ちがあったと思います。自分に集中できない、出遅れ感ですね。そこで1人葛藤したことも、普段と違っていたと思います」

 SPではその迷いがもろに演技に出てしまったのではないか、と野口さん。フリーの時は吹っ切れて4回転ループを決めた。点数がもう少し出ても良かったのでは……という演技だったが、滑走順が早いこともあり点数が伸びなかった側面もあった。

「4年後、絶対にメダルに届くところに行くぞ! と、強い気持ちを持ってきっかけを掴めたんじゃないかと思います」と今後の成長に大きな期待がかかる。

選手のピーキングを狂わせた「いつもと違うスケジュール」

 五輪では通常、フィギュアとショートトラックは同じリンクで行われる。これまでは朝に公式練習、昼にショートトラックの競技、夜にフィギュアの競技という順だった。それが今回は、昼にショートトラック競技があった後、夕方に公式練習があり、そのまま夜の競技に入る日程になっている。これが選手たちの感覚を狂わせているところもある、と野口さんは見る。 

 実際、佐藤選手と鍵山選手はSPが終わった後「体が動きすぎちゃった」と同じコメントをしている。今までと違うスケジュールの中、ピーキングのズレが発生してしまった。そんな中、佐藤選手はFSでは公式練習を休む選択をし、それが吉と出る形になった。

もはや代名詞とも言える4回転ルッツをしっかり決めた佐藤選手 ©️Asami Enomoto/JMPA
もはや代名詞とも言える4回転ルッツをしっかり決めた佐藤選手 ©️Asami Enomoto/JMPA

 鍵山選手はFSで今回、初めて4回転フリップを入れた。滑走順はマリニン選手の前。少しでも上回るために、積極的に攻撃型の戦略を選択した。

「もしマリニン選手がミスをするとわかっているなら、今までと同じ構成で手堅くいくわけです。でも演技の時点ではそんなことはわからないですからね。うまくいかなかったとしても、積極的に攻めていく経験は必要だし、挑戦したことで何が問題だったのか、良かったところはどこだったのか、とシミュレーションできたと思います」

 そして野口さんは、最初2本のジャンプを失敗したものの、後半をしっかりまとめて巻き返した鍵山選手の底力を改めて評価する。「1本目、2本目と(ジャンプを)ミスした時の心理状態は相当なものがあると思います。銀メダルどころか、(順位が)どうなるかもわからない。そこから食らいついていけるのは本当にすごい。全日本でも優勝して、日本を背負ってきた経験が生きています」

序盤の失敗もあり、笑顔での演技とはならなかった鍵山選手 ©️Asami Enomoto/JMPA
序盤の失敗もあり、笑顔での演技とはならなかった鍵山選手 ©️Asami Enomoto/JMPA

 スピンとステップはすべてレベル4を獲得。試合後、鍵山選手は「フリップに挑戦してよかった、攻めて取った銀メダルだったから意味が違う」と語った。

自分に集中して金のシャイドロフ、絶対王者・マリニンが感じた重圧

 有力選手が次々と崩れる中、最終的に金メダルを獲得したのはカザフスタンのミハエル・シャイドロフ選手。4回転を5本入れ、従来の構成から難易度を上げてきた。しかし、どちらかというと「金メダルを狙うため」というよりは、「この大舞台でやり尽くすため」という意味合いが強かったのではと野口さん。コンビネーションジャンプの後ろに4回転を跳ぶなど、彼のオリジナリティある構成でやり切ったことが、結果的に栄冠へとつながった。

 そして絶対王者、金メダル確実と誰もが思っていたマリニン選手は、ジャンプのミスが相次ぎ、FSでは156.33点で15位。総合で264.49点でまさかの8位となった。

常人には想像できない重圧とも戦ったマリニン選手 ©️Asami Enomoto/JMPA
常人には想像できない重圧とも戦ったマリニン選手 ©️Asami Enomoto/JMPA

 あまりにも衝撃の結果。しかしマリニン選手は試合後、全てのインタビューに真摯に答えているのを野口さんは見た。「彼はあまりにもすごい選手なので、『練習しなくてもできちゃう』みたいなイメージがありますが、実際はすごく練習するし、工夫するし、考えて勉強してここに至っているんです。積み重ねたものがあっての技術なんですが。それを今回は出せなかったですね」

 常人には想像し難い重圧の中で臨んだ男子シングルFS。スタートのポーズに立とうとした瞬間に、彼に起こったこととは……。

 ポッドキャストでは他にも、以下の話題を話している。

  • 「こんな試合を見たいんじゃないんだよ」やるせなくて涙
  • 従来と違うスケジュールにどう対応していくか
  • メダルが決まった時の鍵山選手の行動
  • 佐藤選手の「人間的覚醒」
  • アダムのFSに見る「2本揃える」ことの難しさ
  • マリニンが滑っている時に考えていたこととは……。

 「これがオリンピックの怖さか」と考えずにはいられなかった男子シングル。語りも止まらず、40分を超える収録となりました。「そうだったのか」も含めてぜひお聞きください。(2月14日収録)

シャイドロフ選手は、冬季五輪でカザフスタンに32年ぶりの金メダルをもたらした ©️Asami Enomoto/JMPA
シャイドロフ選手は、冬季五輪でカザフスタンに32年ぶりの金メダルをもたらした ©️Asami Enomoto/JMPA
 

※ポッドキャストをお聴きいただけるのはNumberPREMIER会員限定で、このページ下部でご視聴いただけます。

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photograph by Asami Enomoto/JMPA

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