現地時間の2月15日・16日に開催されたフィギュアスケート・ペアで、三浦璃来・木原龍一の「りくりゅう」ペアが金メダルの栄冠をつかんだ。まさかのミスが出て、SP5位からのスタート。何が起こっていて、翌日のフリーまでにどのように切り替えていったのか……現地で取材するライターの野口美恵さんに、りくりゅうペアの激動の2日間について伺った。
「本当にドラマティックで、(試合直後は)本人たちも現実を受け入れられない、という感じでした。こんな漫画みたいなことがあるんだなと……」
現地時間の2月15日に行われたペアSP。昨シーズンは世界選手権を制覇、今シーズンもグランプリファイナル優勝と実力はトップクラスの2人だが、リフトにミスが出てまさかの5位発進となった。
野口さんが「りくりゅうに限らず、長年フィギュアスケートを見てきた中で、リフトのミスというのはほとんど見たことがないです」というほど珍しいものだった。
アクセルラッソーリフトは、男性が女性を両手で支えて上げ、左手1本で支えたまま回転し、その後右手もつないで回しながら下ろす技だ。三浦選手が左手の上に乗った時に、2人の手と手の間に衣装のスカートが挟まってしまったという。
本来なら手をつなぎ、お腹でも固定してしっかりとずれないようにして回転。しかしスカートが挟まったことでずれてしまい、リフトが崩れてしまった。

「本当にまず無いようなことなんですよ」と野口さん。ミスというより、本当に「運が悪かった」としか言いようのない事態だった。反省してどうこう、というものではないが、これで10点近く失っていることは事実。まさに「オリンピックの魔物」が潜んでいたということだった。
演技終了後から、木原選手はとにかく落ち込んでしまっていた。しかし三浦選手は気丈に振る舞い、「運が悪かったのかなと。明日頑張ります」とコメント。トップのドイツペアとの差は6.90点。野口さんは「三浦さんがしっかりしているので、どこかに希望はあるなと。ある程度は巻き返せるのではないかと考えていました」という。
涙が止まらない木原をみんなで盛り立てて…
翌日のFS前の公式練習では、木原選手が涙を流しながら滑っている場面もあった。朝起きてからずっと泣いていて、何が悲しいのかわからないけれど、涙がボロボロ出てしまうという状態だった。ほとんどありえないケースだけに、木原選手の中で消化しきれないという思いが大きかった。
一方の三浦選手はずっと気持ちを強く持ち、なぐさめ役となっていた。ブルーノ・マルコットコーチも、野球が好きな木原選手に対して「野球は9回3アウトまでわからないんだから。まだ試合は全然終わっていないよ」と声をかけて励ました。さらに平昌五輪の時にSP4位だったアリョーナ・サブチェンコ、ブルーノ・マソ組(ドイツ)が5.80点差を逆転して金をとった例を挙げ、スコアシートも見せながら「オリンピックは本当にわからないんだから」と話したという。

「本当に、いろんな角度から木原くんのことをみんなで盛り立てるという状態でした。そんな中、三浦選手は『全然まだ終わってない』『ずっとやってきたから大丈夫』と何度も言っていて、木原選手はそれを聞いて『こんなに泣いてちゃいけない』と思ったようです」。練習の後、木原選手は腹をくくって昼寝をして、そこから戻ってくると三浦選手とコーチに「完全にいつもの自分に戻ったので、よろしくお願いします」と伝えたという。
人間的成長がオリンピック金メダルの要因
「FSは丁寧にこなしていましたが、完全に自信に満ちていて、危ないところが本当にないなという感じでした。スピードがどんどん増して、会場もボルテージがどんどん上がっていきましたね」。記者席で見ていた野口さんは、滑りのスピード感とあふれる自信、会場との一体感を感じ、「これはもう最高得点が出るだろうな」と思ったという。結果、158.13点とペアFSの世界歴代最高得点をマーク。総合でも2位に10点近くの差をつけ、金メダルをつかみとった。
「2人の何がすごいって、普段と違う役割……支える側が変わる状況になっても、パッと切り替えてスイッチが入るところだと思います。木原選手も、『今日は三浦さんがしっかりしてくれてるから、泣いてていいや』と思ったようですね(笑)」

ペアの面白さは、技術だけではなく2人の心のやりとりや支え合い方にあり、人間性がより出ると野口さん。2人の信頼関係、人間的成長があってこその、今回の金メダルだった。
ポッドキャストでは他にも、以下のテーマを話している。
- 普段のルーティンもなし、いつもと違う状態で迎えたFS
- SP後の坂本花織の驚きの行動とは
- 2023年世界選手権1位になった時に実力はついていた…そこからの成長
- 日本は「ペア大国」になれる可能性も
- ペアはどれぐらいの年齢までできるのか?
- そして迎える最後の女子シングル
2人だからこそ強くなれる。そのことを実感できた今回の五輪でもありました。「りくりゅう」のことをもっと好きになるエピソードが満載の35分、ぜひお聞きください。(2月17日収録)

※ポッドキャストをお聴きいただけるのはNumberPREMIER会員限定で、このページ下部でご視聴いただけます。
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