「駒澤大学時代、限界まで追い込んだ練習はなかったと思います。大八木(弘明)監督からは『実業団に行ってからが勝負』といつも言われていましたし、そこは伸びしろを残してもらったのかな、と。設定タイムがあったので、ゴールして倒れ込む、ということは記憶にない思います」
印象的な復活劇だった。8月25日に札幌で開催された北海道マラソン、東京五輪代表の中村匠吾が見事に優勝した。フィニッシュ時の気温が26.5度という暑さもあり、タイムは2時間15分36秒。ただ、30㎞過ぎから集団を動かし、レース後半の勝負所でしっかり主導権を握って勝ち切った姿は東京五輪代表ランナーの「完全復活」を印象づけた。
大学時代に箱根駅伝などで活躍する中村を取材し、2019年MGCでの鮮烈な走りを目の前で目撃した取材者として、聞きたいことはたくさんあった。
<62位に終わった東京五輪をどう捉えているのか?>
<東京五輪後、練習拠点を駒澤大学から富士通に移した理由は?>
<32歳になり、ランナーとしてのモチベーションはどこにあるのか?>
東京五輪で感じた「心と体のバランスの悪さ」
これら質問への答えは、ぜひ中村自身の〝語り〟で聴いて欲しいのだが、今回の取材で最も驚いたのが「伸びしろ」についての冒頭の発言だ。
2019年のMGC以降、マラソンにおける駒大卒業生の活躍が目立っている。2時間5分台のタイムを持つ其田健也と山下一貴、そしてパリ五輪代表の座を惜しくも逃した2時間6分台の西山雄介。日本歴代10傑の中に3名の選手を送り込んでいる。
以前、大八木総監督に話を聞くと「選手たちの伸びしろを残したまま、実業団に送り出してきましたから」と言っていた。大八木が長年率いてきた駒澤大学の練習はボリュームも豊富で、質も高いことで知られている。どうやって「伸びしろ」を残せるのか疑問に思う面もあったのだが、今回の中村への取材で腑に落ちた。中村はこう続ける。
「僕やいま旭化成にいる村山謙太が、最初からずっと競り合うような練習はありませんでした。もちろんキツい練習なんですけど、(僕らは)余力を残してというか、試合にフレッシュな状態で臨めるようなメニューだったと思います」
同じ練習でも、中村や村山のようなエース格の選手と、他の選手では指導者の「意図」が違ったのだろう。これは箱根駅伝と育成を考える上でとても興味深いテーマだ。
そのほか今回のインタビューでは以下のようなことも聞いている。
- 北海道マラソンでの復活の要因と「札幌」への思い入れ
- 2019年のMGC当時と比べても練習の質や継続性は「いまのほうがいい」
- 東京五輪で感じた「心と体のバランスの悪さ」
- 富士通陸上部・福嶋正総監督への「信頼」と「恩返し」
- マラソンでNIKEの厚底シューズ「ヴェイパーフライ」を選ぶ理由
- でも「アルファフライ」を履くこともあるのはなぜか
- 刺激を与えてくれるライバルは誰?
- 息抜きの時間はショッピングと●●●!
インタビューを通じ、中村の口調や雰囲気からは復活したことの安堵以上に、現時点のランナーとしての自分自身への充実感、そして今後の自分への期待が強く感じられた。32歳、マラソン選手としての全盛期はまだ先にありそうだ。
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