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「チャンスは数秒しかないな、と」球団公式カメラマンが選ぶイチローの“ベストショット”とは?「他のメディアに『ストップ! 三塁線を越えるな』と叫んだよ」

その間、わずか5秒。
3月21日、東京ドームで行われた試合の8回裏。マリナーズナインが守備に就くと、スコット・サービス監督が球審を呼んでライトのイチローに交代の指を差した。
それが、イチロー引退の瞬間だった。フィールドにいたほかの8人がさっとベンチ前に下がり、試合は4分ほど中断した。イチローは三塁側のベンチに向かい、満員の大歓声の中でチームメイトに迎えられ、一人ひとりとハグをした後、ファンに向けて心からの感謝を表した。両手を挙げて、グラブをしたままの左手をもう一度挙げ、右手でキャップのつばを持って脱帽した。帽子を取ってから頭に戻すまで、5秒。その5秒が、ベン・バンハウテンにとって最大の勝負の時間だった。
マリナーズのベン・バンハウテンが語る撮影の舞台裏
1992年からマリナーズのオフィシャルカメラマンを務めている彼は、選手の脱帽が短い時間で終わってしまうことを知っていた。だから、準備しないと撮り逃してしまう。イチローのその5秒がいつ、どこで来るかを考えた。イチローが右手を帽子に近づける度にシャッターを切ったが、それもむやみに撮っているわけではなく、イチローの真正面に構え、ほかのカメラマンやチームメイト、セキュリティなど他者が誰も写らないような構図を探した。この1枚(冒頭)は、全米放送のCNNに週間ベストショットとして選ばれた。
バンハウテンはこの瞬間を、こう振り返る。
「私の仕事は、球団の歴史を記念に残すこと。誰が見ても『ああ、あの瞬間だ』と思い出せるように写真を撮らないといけないんです。場所が東京ドームだとわかるような構図で、しかもイチローは帽子を取るのがあまり好きではないと知っていたから、チャンスは数秒しかないとわかっていました。ほかのカメラマンが写っていないフレーミングが理想だと思っていますが、今回は周りに誰もいなかったことが非常にラッキーでした」
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