
日本プロ野球界に姿を現したイチローという名の20歳の青年は、はたして何者なのか? 史上初の打率4割超えをも視野に入れながら、本人はいたってクールな反応だ。「宇宙人」「天才」「盆栽」──様々なキーワードを交えながら、彼の本質に迫る!(初出:Number345号 イチロー「打率3割9分でも凄いじゃないですか。まだハタチですよ」 NumberPLUS「イチローのすべて」にも掲載)
イチロー。本名、鈴木一朗。
プロ野球オリックス・ブルーウェーブの外野手として、今季60試合目にして100安打。63試合目で打率を4割台に乗せた20歳の若武者は、今や“時の人”となった。
イチローが動けば、報道陣が動く。
メディアには連日“イチロー”の文字が躍る。彼の一挙手一投足は、彼自身のものではなく、マスコミのものになったかのよう。
なんでも新聞や雑誌によれば、イチローはスポーツ少年団の野球部の監督でもあった父親と、漫画の『巨人の星』を地でいく猛練習を幼い頃から続けてきた。勉学にも力を入れ、成績優秀。
高校(愛工大名電)時代の野球部監督・中村豪さんは、彼のことをその並外れた才能に敬意を表して「宇宙人」と呼び、彼は自他ともに認める「天才」だったという。趣味は盆栽だそうだ。
天才にして盆栽──。
メディアから伝わるイメージは、クールな優等生。ただ、ちょっと盆栽が気になる。
私は、オリックスの本拠地、グリーンスタジアム神戸へと出掛けた。
私の前をイチローくんが通り過ぎていく。グラウンドの芝の上は、ゆうに40度を越えているが、彼は帽子もかぶらず、直射日光をそのまま浴びながら、練習をしている。
イチローいるところ、カメラマンあり。いつでもどこでもレンズが彼を狙っている。
なのに、当の本人は、そんな視線をものともせず、終始リラックスして練習をこなしている。時折、ヘラヘラと笑い、飄々と歩く。周りの空気と彼のいる空間は、交わるでもなく、離れるでもなく、柳に風か、どこ吹く風か、実に自然な空気の流れの中に彼はいた。

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photograph by Naoki Ishizaka
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