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「この戦いに負けたから引退した」イチローが明かす“あの東京ドーム”までの揺れ動く心…引退後知った妻の行動とは?「弓子って自分からは何も言わないんですよ」《インタビュー/2019年》

2025/04/21
幾多の衝撃と喝采を呼んだスーパースターが、ついにその歩みを止めた。28年の現役生活で、バットを手に戦ってきたものとは何だったのか。現役引退から数日後、シアトルでトレーニングを続ける彼を訪ねた。(初出:Number976号 イチロー「長き戦いを終えて」 NumberPLUS「イチローのすべて」にも掲載)

──現役を引退してから、どのような時間が流れているんでしょうか。

「時間に追われることのない、そんな時間が流れています。それと、シアトルに戻って2日目だったかな。寝違えちゃったんです。朝、起きたら首が痛くて。もし引退していなかったら、毎日が憂鬱で仕方がなかったと思います。もちろん痛みがあるから気にはなりますが、それでも、今までのように考えなくてもいいんだと思ったとき、改めて引退したことを実感しましたね」

──シアトルは桜が満開、春の気配が漂っています。この季節になれば戦闘モードのスイッチが入るはずなのに、それを入れられない喪失感はありませんか。

「喪失感、現段階ではまったくありません。毎日、テレビでマリナーズのゲーム(試合)を観る態勢ができていることを見てもそう言えると思います。当初は、心の整理をしなければゲームは観られないと思っていました。でも、実際にはそうではなかった。ただ、それは解放感があるからなのか、あるいは未だに解き放たれていないからなのか、どちらなのでしょう」

Naoya Sanuki
Naoya Sanuki

「引退は野球選手としての死」、どう迎えた?

──引退を発表したときの記者会見で「後悔などあろうはずがない」と断言できたんですから、解放されているんじゃないですか。

「会見で草野球の話、しましたよね。プロ3年目に210本のヒットを打って一気に番付を上げられてからは、しんどくて、それまでの純粋に楽しい野球ではなくなってしまった。でもプロ野球選手としてそれなりに苦しい時間を過ごしてきたからこそ、草野球を楽しめるようになる、という話。その話と似ていて、メジャーの野球を苦しみながらやってきて、終わったときに『あれをやっておけばよかった』という状態になかったからこそ、すぐにゲームを観られる態勢になっていたんじゃないかと思うんです。もし何らかの悔いがあったとしたら、しばらくは観られなかった……(他球団同士の)プレーオフもそうでした。自分なりに結果を出したときにしかテレビでプレーオフのゲームを観られませんでした。そうでないときは気持ち悪さが自分の中に残っていて、消化し切れなかったんです。今、18年ちょっとの時間を振り返ってみて、それがなかったから、スッとシアトルでの開幕戦を観られたのだと思います」

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photograph by Naoya Sanuki

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