灼熱のグリーンスタジアム神戸、ここの開門は他球場よりやや早い。イチローのバッティング練習時間に合わせているためだ。イチローの打球が美しい放物線を描いて、スタンドに突きささる。わき起こる大歓声、イチローは軽く帽子のひさしに手をやり会釈する。
打撃練習を終えたイチローは、外野の守備位置でキャッチボールの遠投をはじめる。グラブを背中にまわし、背面キャッチを試みる。わき上がる大喝采、イチローはさりげなく外野スタンドに挨拶をする。また起きる喝采。フェンスをはさんで、スタンドとグラウンドには不思議な一体感が生まれている。
他選手の打球が外野に飛ぶ。そのボールを捕ったイチローは、スタンドに向かって投げ入れる。ファンと選手との妙な会話が続いている……。
「昔はよく見られた風景だよ。西鉄が強かった時、大下さんや中西太さんがよくやっていた。ボクはまだ若かったから、出来なかったけれどネ」とオリックスの仰木彬監督は言う。昭和9年、ベーブ・ルース一行が日本に来た時、群がるファンにイヤな顔をせず、サインをしつづけたという話を、少年時代に読んでいたから、イチローのその姿には全く違和感を覚えないとも続けた。初老の記者の一人は「イチローはボクらの忘れていた、プロの原風景を思い出させてくれたよ」と言う。
8月に入ってのオリックス戦は、地方球場を含めて、満員御礼の出なかった試合は2試合のみ。この観客動員の陰には、イチローとファンとの会話が大いに貢献していると言ったら言いすぎだろうか。
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