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《中国で「遼神」と呼ばれる囲碁棋士》“世界No.1”一力遼が語る「鬱に近い状態」からの復活、そして井山裕太と藤井聡太【インタビュー】

2025/01/01
2024年に応氏杯で日本人初タイトルを獲得した一力遼
令和の碁界を牽引する天賦の才が上海の地で刻んだ、日本勢として19年ぶりの世界制覇という歴史的快挙。しかし歓喜の一日は、この競技が置かれた現状もまた浮き彫りにした。世界一の棋士は今、何を思うのか。(原題:[世界王者の矜持]一力遼「囲碁の未来を創るために」)

 あなたは自分が何曜日に生まれたかを知っているだろうか。

 一力遼なら教えてくれる。生年月日を伝えれば数秒後には確実に正答を導き出す。

「曜日の計算はうるう年などの関係で28年周期ですから。簡単です」

 中国で「遼神(リヤオシエン)」の異名を持つ男は、神の威容ではなく少年の微笑で静かに言う。

 試しに筆者の生まれた日を伝えると、瞬時に「火曜日ですね」。正解。そして驚愕の事実を明かす。

「4歳の頃ならもっと早く返せました」

 棋士の頭脳は常識では計れないのだ。

 囲碁と出会い、夢中になった幼稚園児の頃、数字にも心酔した。卒園前に独学でルートの計算ができるようになっていた。小学2年の時、掛け算の法則を新発見したと自由研究にまとめたこともある。完全数の存在を父に教わると「6の次は28だよ」と得意気に返した。

「完全数は好きですね。響きが良いですし、概念として素数が関わっているので」

 まるで呼吸するように素因数分解をする。乗車する新幹線の便名、路上を往来する車のナンバープレート。目に入る数字という数字は計算の対象になる。

「自然と考えてしまうんです。数字が純粋に好きなんだと思います」

将棋の駒とは異なり、碁石に機能差はない

 囲碁は盤上に広がる宇宙で戦う競技である。自らの石でより多くの陣地を囲った者が勝つ。二人の対局者は19×19の線上に黒石と白石を交互に置き、生死を問う。局面の変化に応じて速く正確に目数(陣地の数)を数える計算力は不可欠である。

 将棋の駒とは異なり、碁石に機能差はない。置く場所も自由。将棋の盤上に出現し得る局面総数は10の220乗とされるが、囲碁は10の360乗とも言われる。限りなく無限に近い有限の可能性の中で放つ一手は数的世界への遥かなる挑戦でもある。

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photograph by Ichisei Hiramatsu

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