人がいなくなったピッチに、ボールを叩く乾いた音だけが響いていた。
11月下旬、安芸高田市サッカー公園に寒風が吹きすさぶなか、21年間変わらないいつもの光景があった。サンフレッチェ広島ひと筋、スパイクを脱ぐことを決めた後も青山敏弘は居残りでずっと一定の音とリズムでボールを蹴り続けた。
若手、そしてクラブOBの駒野友一とパートナーを替えながらインステップキック、インサイドキックを利き足の右足だけで一つひとつ軌道を確認するように放っていく。
「僕はずっとこの右足で生き残ってきましたから。最後の最後までこの右足を信じたい、という思いで蹴っていました」
いつもよりちょっとばかり熱が入っていた。リーグ戦は残り2試合。首位ヴィッセル神戸を勝ち点3差で追う2位につけ、今年オープンしたエディオンピースウイング広島での今季最終戦を目前に控えていた。この日、指揮官のミヒャエル・スキッベからベンチメンバー入りを告げられた。対戦相手は恩師ミハイロ・ペトロヴィッチ率いる北海道コンサドーレ札幌。運命を感じずにはいられなかった。

「ずっと引退を覆したいと思ってきた」
新シーズンを迎えるにあたってクラブと話し合いを持ち、今季限りの引退が決まっていた。だが内心、その決定を覆してやろうと日々の練習でアピールしてきた。
「このクラブで、このタイミングで辞めるのが一番いいし、幸せなこと。ただずっと(引退を)覆したいと思ってきた。最後の悪あがきじゃないけど、自分に一番期待しているのは自分なんでね。ここで力を出せるんじゃないかなって信じているんです」
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