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「すべての根底にあるのは『速さ』なのだ」藤井聡太、21歳の強さとは何か?《八冠ロード密着取材で見えたもの》

2023/11/22
棋界統一への最大の関門だった王座戦。稀代の天才は元来の読みの正確性に加え、自身の“最大の武器”を磨き上げて挑んでいた――。大ピンチの連続となった八冠ロード最後の戦いを密着取材した記者が振り返る。

 少し照れた表情を浮かべた藤井聡太は、報道陣の前で8本の指を掲げた。それは将棋界の八大タイトルを全制覇したことを意味していた。白く細い8本の指は、藤井の棋界統一の軌跡である。

 2023年に入って掲げる指の数が片手では足りなくなってから、藤井は記者会見で恒例の質問を受けるようになった。言うまでもなく、八冠についてである。すると藤井は表情を変えずに「意識していません」といつも同じ返事をした。判で押したように、とはこのことである。

 これは本心だ。意識しても対局にいい影響があるわけではない。そして現実的に八冠達成は容易ではないという思いもあったはずである。王座戦は藤井にとっての鬼門で、直近2年は挑戦者決定トーナメント(以下、本戦)の初戦で敗れていた。リーグ戦と違ってトーナメントは1回負けたらそこで終わり。通算勝率8割3分を誇る藤井でも、強豪相手に本戦で4連勝して挑戦権を獲得するのは簡単ではない。

 さらに時間計測の方式が変わったことも影響していた。藤井の王座戦の最高成績は2018年のベスト4。この時は1分未満の考慮時間は切り捨てられるストップウォッチ方式だったが、使っただけ時間が減るチェスクロック方式が2019年に導入されてからは早々の敗退が続いていた。

 好奇心と探求心が誰よりも強い藤井は序盤から妥協なく考えることが多く、時間を惜しまなかった。残り10分を切ってから1分未満で指し続け、残り数分をキープする作戦でしのいでいた。数分あれば予期せぬ局面になっても対処できるが、チェスクロック方式はすぐに一分将棋に突入するのでこの技が使えない。

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photograph by Mitsunori Kaneko

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