日本のレジェンドに憧れ、剣術に身を捧げた26歳が、個人種目で日本人初となる高みに到達した。だが味わったのは孤独感。団体戦の銀メダルの方が達成感を覚えているという。その理由とは――。(原題:[最強剣士インタビュー]加納虹輝「意外と銀がキレイなんです」)
金メダルより銀メダルのほうが喜びが大きい。
加納虹輝はきっぱりと言い切った。男子エペ個人戦の「金」、団体戦の「銀」を首にかけて臨んだ記者会見。光り輝く勲章こそがアスリートにとって最大の栄誉のはず。しかし、銀色の価値は別物だった。
加納は周囲の評価に左右されない哲学を持つ26歳の剣士だ。愛知県に生まれ、体操少年だった小学5年生。北京五輪で太田雄貴が剣を振り、銀メダルを獲得する姿を見て、衝撃を受けた。
「剣を使ったスポーツ、カッコいいな」
純粋な憧れから剣を握った少年は研鑽を積むため、遠く離れた山口県の岩国工業高校へと進む。学生時代、「趣味はフェンシング」と言われるほど剣術に身を捧げた。2008年から日本にやってきたウクライナの闘将オレクサンドル・ゴルバチュクと出会い、才能がさらに開花。「背の低い僕に世界で戦うための戦術をほぼすべて授けてくれた」と感謝する指導者とともに、男子エペの世界ランク1位まで登り詰める。
「今、フェンシング人生の中で一番調子がいい」
胸を張って乗り込んだパリの地だった。
「日本人が全員負けるわけにはいかない」。
言葉通り、個人戦では敵地「グラン・パレ」の舞台で躍動し、決勝に進出。金メダルを懸け、身長196cm、フランスのヤニク・ボレルと対峙した。日本の見延和靖、山田優が次々とねじ伏せられていた宿敵だ。
「相性はよかったはずだが、今日は相手に気合が入っていて、いつもと違う姿を見せられた」(見延)
「指の皮がむけそうになるほどパワーが強い。あと少しだったが、足を狙った突きが失敗した時に『見切られている』と考えてしまい、戦術を貫けなかった」(山田)
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photograph by Kaoru Watanabe / JMPA