東京五輪を見て自分の可能性に気付いた14歳。王者としての孤独と苦悩を味わってきた25歳。決戦の舞台で限界に挑み、大逆転劇を見せた二人は、スケーターの本来の姿を鮮やかに体現していた。(原題:[自分を信じた逆転劇]吉沢恋/堀米雄斗「限界突破の先に」)
メイクしてきた一番難しい技でメダルを獲りたい。
競技のさなかに吉沢恋が思っていたのは、自分がこの先どうすべきかということだった。それは勝つためでもあるが、この大舞台でどんな滑りをしたいのかというスケーターとしての問いかけでもあった。
「1位になれるとしたら……ビッグスピンフリップの技だな」
ラン2本のいずれかとベストトリック5本のうち2つ。つまり得点の高い3本の合計点で争うのがパリ五輪のスケートボード・ストリートの方式だ。
女子ストリート決勝。ランでは海外の有力選手にミスが相次ぐ中、吉沢は緊張感などまるでないかのような滑りで2位につけた。「友達として、ライバルとして必要な存在」という1歳年上の赤間凛音とのワンツー態勢。ベストトリックでも、1本目に失敗したキックフリップ・ボードスライドを2本目で成功させた。まだ3本の猶予がある。手堅くもう一つ技を決めておけば間違いなくメダルは獲れそうだ。
だが、14歳の思考は反対側に動いた。
「獲るなら1位がいい。レベルを落として『まずこれで』とかじゃなくて、メイクしてきた一番難しい技でメダルを獲りたい」
自分の可能性を信じて選んだのがビッグスピンフリップ・ボードスライドだった。昨年6月のローマでの大会で頭を強く打って頭蓋骨にひびが入り、療養のために1カ月現地にとどまるアクシデントがあった。以降しばらく封印していた大技。今年6月にブダペストで行われた五輪予選最終戦では、これを決めて優勝を飾っていた。
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photograph by Asami Enomoto / JMPA