エイシンフラッシュというウマ娘について興味を持ったのは、以前ミスターシービーに、印象的な後輩について尋ねた時のことだ。何人かの名前を挙げたあと、シービーは言った。
『あとはエイシンフラッシュかな。あの子も面白いね』
あの時の彼女は、なぜかとても楽しそうだったことを覚えている。
シービーほどの実力者が「面白い」と評していたと伝えると、当の本人はとても驚いた様子だった。
「そうですか……。想定外ですが、ありがたいです。ダービーを勝つまでの過程には、シービーさんのお力添えが欠かせませんでした。あの方と出会わなければ、私はダービーを勝てなかったかもしれません」
真面目で几帳面、ダービーを走ることも「予定」のひとつ。
エイシンフラッシュは、ドイツでケーキ屋を営む両親の元で生まれ育った。留学生の多いトレセン学園のなかでも、ドイツ出身というのは極めて稀だ。
「父はマイスターの資格を持つ職人で、母はかつてレースを走るウマ娘でした。引退してから同じように資格を取得して、今は父を手伝っています。なすべきことをなし、正しい道を全うする2人を、私はとても尊敬しています。そして、両親のように歩みたいと思っています」
真面目で几帳面な性格は父親譲りなのだろう。レシピ通りの工程を踏むことが何より大事なケーキ作りのように、彼女は何カ月も先まで決められた分刻み、秒刻みのスケジュールを寸分も違わずこなす。ダービーに出走することもまた、幼い頃から心の中に組み込まれた「予定」だった。
「子どもの頃、母がドイツのダービーを見せてくれたことがあります。レース自体も素晴らしいものでしたが、その時に日本のダービーもとても盛り上がるのだと教えてくれたのです。私が『そのレースで走れば、私もすごい?』と聞くと、笑顔でこう答えてくれたのです。『super、toll、klasseです、フラッシュ!』と」
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