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【石田雄太の視点】水原一平通訳の解雇騒動における“本質”…大谷翔平に対する世間の「ダブルバインド」とは?<13年取材する筆者が考える>

2024/04/18

“ほんとう”はどこにあるのか。

 野球を見るとき、選手の話を聞くとき、“ほんとう”がどこにあるのかを探してきた。この場合の“ほんとう”は、真実とは必ずしも一致しない。真実を知り、何を伝えるべきかを考え、“ほんとう”を描く。自分なりのスポーツライティングはその積み重ねだと考えてきた。

 ここまでのニュースから窺い知ることができる真実は、アメリカの違法なブックメーカーに大谷翔平名義の口座から送金がなされていたと報じられたこと、通訳の水原一平さんがドジャースを解雇されたこと、大谷翔平がカメラの前でコメントしたこと、そして連邦捜査当局が水原さんを訴追し、大谷を被害者と明言したこと……くらいだろうか。しかし世に溢れてきた2次情報は、違法なブックメーカーとも水原さんとも、もちろん大谷とも話をしたこともなければ接点さえない人たちが推測で話していることがほとんどだった。そうした情報を鵜呑みにして、妄想を膨らませた3次、4次情報が世の中を駆け巡っていた。

“ほんとう”のことは得てしておもしろくないものだ。だから、妄想を膨らませておもしろがろうとする。しかし、その発想というのは、じつは心の鏡でもある。「きっとこうだろう」「そんなわけがない」「絶対にこうだ」と決めつけた言葉は、口に出した人の心の中にある虚構だ。“ほんとう”のことよりおもしろいことを優先してきた結果、先入観に囚われて、いくつもの真実から読み取れる“ほんとう”を見失ってしまう。虚構が心に棲み着くのだ。

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photograph by Nanae Suzuki
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