日本一の陰には、11名の大学生の献身があった。現役時代の悔いや憧れを胸に、指導者の道を歩み、高校生たちと真摯に向き合い続ける良き兄貴分たちには、約40年受け継がれし若き血のDNAが流れている。
夏の甲子園に響き渡った「若き血」。
慶應義塾高校、107年ぶりの全国優勝は既存の高校野球のイメージを変えた。それでも、十分に語りつくされていないこともある。高校生たちに適切な目標設定を促し、成長へと導いた学生コーチの存在だ。
2月20日午後2時、日吉にあるグラウンドを訪ねる。森林貴彦監督は慶應幼稚舎での教務のため、グラウンドに到着するのは夕方。平日の練習の実施は大学生たちに任されている。
現在、慶應高には11名の学生コーチがいる。全員、高校時代はこのグラウンドで白球を追い、大学進学を機に母校のコーチになった。この日、話を聞いたのは投手担当の松平康稔(法3)、内野担当の片山朝陽(経3)、外野担当の松浦廉(商3)の3人。
投球練習のあとは必ず話し、選手が考えていることを把握する。
慶應高の特色は学生コーチが戦略、戦術の立案に深く関与していることだ。投手コーチは激戦の神奈川を勝ち抜き、甲子園で勝てる投手陣の構築を進め、野手コーチたちは「チーム能力の最大化」(松浦)を図る。学生コーチたちは日々の練習の中で選手個人の目標を聞き出し、その実現に向け手助けする。投手担当の松平は選手との対話を重視している。
「各学年に10人前後、投手がいます。投手というポジションは、生きる道がたくさんあります。140kmを超えるストレートで勝負したい。あるいは右のサイドスローから特殊球を投げて相手を幻惑する。面談という改まった機会ではなく、ブルペンでの投球練習のあとには、必ず話す機会を作り、選手が考えていることを把握するようにします」
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photograph by Yuki Suenaga