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「生と死の境目を行き来する存在として」映画監督・岩井俊二が語る羽生結弦…『花は咲く』の生みの親が込めた想いとは?

映画『花とアリス』『リリイ・シュシュのすべて』などでも知られる岩井俊二監督(右)
 指先まで神経が行き届くような繊細な動きで、力強さとしなやかさ、美しさを体現する氷上のアーティスト。異なる分野で活躍する表現者たちも、彼が醸し出す世界観や芸術の域に達する珠玉のプログラムの数々に魅了されている。
 震災から10年となる今年3月、羽生結弦が演じた『花は咲く』。その詞を生み出し、数々の話題作を世に送り届けてきた鬼才は同じ仙台出身の表現者・羽生結弦の演技をどう見てきたのか。(初出:Number PLUS FIGURE SKATING TRACE OF STARS 2020-2021シーズン総集編アーティストが語る羽生結弦歴代プログラムの美 岩井俊二 「着地しない思いと着氷するジャンプ」)

―羽生結弦選手との出会いを教えてください。

「羽生さんを初めて見たのは、まだ本当に若くて華奢な少年の頃で、髙橋大輔選手と競い合っていた頃でしたか。後半にスタミナが足りなくなってしまう、解説者の方がそんな感想を語っていた時期でした。そこから、どんどんどんどん成長して、おそらくスタミナも克服して、その後の快進撃は皆さん御存知の通りかと思います」

―フィギュアスケート版の『花は咲く』は、NHK東日本大震災プロジェクトの一環として、2014年に発表されました。岩井監督作詞のオリジナル曲が誕生してから2年後になります。

「『花は咲く』という曲はちょっと特殊というか、前提になっているのが東日本大震災で、その悲劇に比べれば個人個人がやれることは非力だし微力。それが大前提にある中で、少しでもできる事はないものか、という取り組みだと思うんです。僕自身もそういう思いで関わっていたし、羽生さんもそうなのだろうな、と思いながら見ていました」

―羽生選手は高校1年生、16歳の時に、岩井監督の地元でもある仙台のアイスリンクで被災しています。

「大人の我々とはまた違う、感受性も豊かで多感な時期に、あの震災を体験している。それが彼の中にどう強く残っているかは、本人にしかわかりませんが、きっと何かを抱えながら、背負いながら、その中でああいうパフォーマンスをしているんだなと。羽生さんが演じながら頭の中で描いている景色は、その後方に大きな悲劇があるわけで、テレビ画面越しではありますけど、身を正して見てしまいますね」

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photograph by Asami Enomoto/Tsutomu Takasu/Yukihito Taguchi/PHOTO KISHIMOTO

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