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「どの瞬間を切り取っても絵になっている」元体操選手・村上茉愛が語る羽生結弦の“融通無碍”「全ジャンルの曲を表現できる人はめったにいない」

東京オリンピック・種目別「ゆか」で銅メダルを獲得した村上茉愛さん(右)
体操で唯一、音楽に合わせて演じる種目「ゆか」。そのスペシャリストだった東京五輪銅メダリストは「合わない曲はないのでは」と表現の多彩さを称賛する。体操とフィギュア、同じ採点競技の視点でみる羽生とは。(初出:Number PLUS FIGURE SKATING TRACE OF STARS 2021-2022シーズン総集編 村上茉愛「一瞬を切り取った絵のように」)

 体操競技で男女を通じて唯一、音楽を使う種目が女子の「ゆか」であり、選手それぞれの個性を最も表現できるのが「ゆか」です。演技時間は90秒。ショートプログラム(SP)2分40秒、フリー4分のフィギュアスケートと比べると短いのですが、近年は90秒間に「物語性を持ったプログラム」を演じることが求められるようになり、細部の表現力がより一層必要になっています。

 以前はたくさんのアクロバット技を盛り込んでいる選手が高得点を出すことが多かったのですが、今は傾向が変化し、表現にこだわっている選手の方が高得点を出すようになってきました。ですから、女子選手の中には表現の勉強のため、フィギュアスケートを見るという人も多くいます。

羽生選手の演技から感じる魔法のようなオーラ。

 羽生選手の演技には他の人とまったく違う、まるで魔法のようなオーラがあります。手の指先から足のつま先まで神経が行き届いているのはもちろん、顔の表情や髪の毛、肌まで含めて、体中の全てで演技をしているような気がします。羽生選手が滑った軌跡には残像があると感じるほどですが、それは細部の動きにまでこだわっているから。1秒間に詰まっている表現に、他の選手とは違う密度があるのです。羽生選手のような表現力は、私自身も持ちたいと思っていたもの。そういう意味で、フィギュアスケートとゆかには似ている部分があるのではないかと思っています。

 羽生選手の演技では、ジャンプに行く前の準備がどこから始まっているのか分からないほど、自然とジャンプに入っていくところも素晴らしいと思います。加えて、踊りながら滑っている時でも、上半身と下半身の動きが見事につながっています。これは体幹がしっかりしている証拠。動きの中で表現するのは私も得意ですが、写真で一瞬を切り取ってもすべて絵になっているところに、羽生選手の隙のない表現へのこだわりを感じます。自分をどう見せるのが一番魅力的なのかを完璧に理解しているのでしょう。

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photograph by Naoyoshi Sueishi/Kiichi Matsumoto

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