#1043
巻頭特集

記事を
ブックマークする

[好評企画]アーティストが語る羽生結弦歴代プログラムの美 反田恭平「ショパンの想いに寄り添って」

反田恭平(Kyohei Sorita)1994年9月1日、北海道生まれ。2012年、日本音楽コンクールで第1位。'14年にチャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院、'17年からはフレデリック・ショパン音楽大学に在籍。'21年10月、ショパン国際ピアノコンクールで日本では半世紀ぶりの第2位を受賞
過去4シーズンSPで演じた『バラード第1番』。羽生はショパンの意図をいかに表現したのか。昨年10月、世界の舞台で輝いた音楽家が語った。

 僕は2013年から留学のためロシアにいて、羽生選手のことはその頃から知っていました。ロシアの方たちにとってフィギュアスケートは国技のようなもので、授業中もよく話題になっていたんです。「日本出身なんです」と話すと、「羽生くんの国ね」と言われ、覚えてもらって(笑)。同じ日本人として誇らしい反面、'94年生まれの同世代としては少し悔しい気持ちも感じました。

 昨年10月、僕は世界最古の音楽コンクール、「ショパン国際ピアノコンクール」に出場し、2位に入賞することができました。フレデリック・ショパンの“通訳者”を探すというのがこのコンクールの趣旨だと僕は受け止めて臨んだのですが、今回、そのショパンが作曲した羽生選手の『バラード第1番』を見て感じたのは、柔らかでありながらも確固たる核があるということです。そして、この曲をよく理解しているな、と。和声感や1小節、1拍ごとに印象や風景、状況が変わり、0コンマ数秒から1秒程度の間で世界を作ってくれるのがショパンの作品。羽生選手はそういったものに合わせて演技されている。たとえば、ピアノでは左手で弾くバス音(低音)がボンと鳴るときに、彼は氷上を回りながら足で蹴っている。そういった動作からは、ショパンの作品の意図を表現し、観客へと伝えるようなものがあると感じました。

 '16年の世界選手権の映像を見ましたが、演技冒頭に4回転ジャンプを跳んだ後、音が下降するときに音の旋律の高低差をうまく利用して踊っていますよね。さらに、その後一瞬動きが止まり、次の振付に移っています。こうした“間”の取り方も非常に秀逸です。続く左右のターンも音が頂点に上がったところで音楽の圧のようなものを理解した振付になっている。また、連続ジャンプのあたりではフレーズが3度繰り返されますが、ショパンは3回目で頂点に持ってきているんです。羽生選手はそこで1回目で助走に入り、2回目はジャンプ、そして最後の3回目のところでは両手を大きく広げ、開放しているような印象です。ショパンのバラードで言うと、このあたりは経過句といって様々な挑戦に向かうためのカデンツァ(自由に即興的な演奏をすること)というか、次の主題に向かって落ち着いていく架け橋なんです。その後、調性が変わる瞬間に、羽生選手はそこで激しい動作をやめて、ゆっくりきれいにスピンしている。さらに、その後、主題に戻るのですが、序奏の後の主題とは振付を変えていますよね。そして、演技終盤のコーダに向かって少しずつエネルギーを溜めています。

特製トートバッグ付き!

「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています

photograph by Ichisei Hiramatsu / Asami Enomoto

0

0

0

前記事 次記事