#1043
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[好評企画]アーティストが語る羽生結弦歴代プログラムの美 首藤康之「小さな点から広がる光のように」

首藤康之(Yasuyuki Shuto)1971年11月11日、大分県生まれ。東京バレエ団では『白鳥の湖』などの古典作品を始め、モーリス・ベジャール振付の『ボレロ』など世界的振付家の作品に多数出演。2004年に東京バレエ団を退団後は映画やドラマへの出演の他、創作活動も積極的に行っている
かつて『スワン・レイク』で白鳥を演じた彼は、羽生の精神力の強さと美しさに感銘を受けた。若さと円熟味が増した演技に見たものとは。

 一度だけ羽生結弦選手の演技を生で拝見する機会があったんです。まだビールマンスピンをやっている頃で、相当お若かったと思います。今でも線は細いですけど、当時はもっと細かった。透明感の塊みたいな感じでしたね。男性なのに柔らかいな、という印象が凄くありました。 

 ああいった筋肉というのは、やはり生まれ持ったものなのでしょう。バレエでもそうですが、柔軟性や可動域、股関節条件は、努力でもある程度のパーセンテージには達します。ただ、筋肉の質になってくると、努力で獲得できるものではありません。だからこそ、彼が今あの地位を築いているのだと考えます。

 今回『ホワイト・レジェンド』をあらためて見させていただいたのですが、10代半ばの演技と、ソチ五輪のエキシビションとでは、まるで違うものですね。若い頃の演技は、生まれたての赤ちゃんのような新鮮さと初心さが、彼の透明感に繋がっている感じがしました。それがソチの頃になると、経験というものが加わってくる。毎日の鍛錬から生み出される強靭な肉体はもちろんのこと、そこに「精神力」が付加された気がしました。

 当然、若いほうが身体的には柔らかいのですが、ソチの方がさらに柔らかく見える。これはなぜなのか?

 プログラムのモチーフになっている「白鳥」ですが、一見して優雅で美しく、柔らかそうなイメージを持たれる方が多いかと思います。ところが、実際には自分の雛を守るためなら、他の鳥や人間にさえも立ち向かう、強靭な野生生物なのです。

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photograph by JMPA

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