眼光はひときわ鋭かった。滑り終えた安堵でも、喜びでもなく、そこには限りない困難に挑んだ者ならではの、射抜くような眼差しがあった。
2021年12月26日。全日本選手権フリーの最終滑走者、羽生結弦は、圧倒的な存在感をもって4分間を滑り切った。
約8カ月ぶりの試合だった。
本来、今シーズンの初戦となるはずだったNHK杯(11月12日開幕)の8日前、右足関節靱帯の損傷で欠場を発表。その2週間後のロシア大会も欠場を余儀なくされたことで、北京五輪代表の選考会も兼ねた全日本選手権が初めての実戦の場となった。
12月22日の公式練習は欠席したもののその夜の開会式に出席、ときに笑顔交じりで元気な姿を見せた羽生は、12月23日午後に行なわれた公式練習で、ついに氷上に上がった。
怪我からの回復具合はどうか。どこまで調子を取り戻しているのか――それは杞憂であった。いや、その姿は前月に怪我をしたことを思えば、驚きのほかなかった。
白のジャージをまとう羽生は滑り始めると、確認するように会場を見渡す。
3回転ループ、オイラーを挟む3連続ジャンプを確認し、4回転トウループを成功させる。軽やかであった。
フリーの曲『天と地と』が流れる。まずトリプルアクセルを決めると、4回転サルコウ、トリプルアクセル-2回転トウループ、3回転ループ、4回転トウループ-3回転トウループも成功。リンクサイドへ向かい、曲は終わった。
その後、トリプルアクセルを中心に跳んでいた羽生は、練習開始から30分ほど経ったころだろうか、この日、初めてのジャンプに挑んだ――今大会で演技に組み込むと明言していた、4回転アクセルだった。両足で着氷すると、すぐにまた挑戦し再び両足着氷。すでに入場していた観客から拍手が起こる。
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