「これは試合前の空気じゃないだろう! こんな状態で戦えるのか!!」
ロッカールームにアルベルト・ザッケローニ監督の怒声が響く。2011年1月9日、アジアカップ初戦ヨルダン戦直前のことだ。
通常キックオフ90分前にスタジアム入りする選手バスが、この日は早く到着。選手はそれぞれに準備を進めていた。
「それほど弛んだ空気ではなかったけれど、早く到着したことで、確かにいつもとは違う雰囲気だったのかもしれません。それを監督が締めてくれた。でも結局、そういう試合になってしまった」
途中出場した岡崎慎司はこう振り返る。主導権を握りながらも得点が奪えず、45分に失点。92分、吉田麻也のゴールが決まり、なんとか敗戦をまぬがれた。
日本代表は2010年のW杯南アフリカ大会でベスト16進出を果たした。岡田武史に代わり就任したイタリア人監督は、ここまで親善試合2試合を終えただけだった。
W杯では堅守速攻という戦い方で結果を残せたが、選手たちが抱く戦い方への満足度は高くなかった。だからこそ、「いかに戦うか」へ注力し、最初の公式戦としてアジアカップに挑んだ。その状況はW杯カタール大会で躍進した翌年にアジアカップを迎えた現代表にも通じるものだろう。
岡崎は南アフリカで開幕直前に先発を外され歓喜の輪のなかでも悔しさは消えず、捲土重来を胸に秘めていた。
「ザックさんの初戦だった10月のアルゼンチン戦で、僕は先発して、ゴールも決めました。でもそこで負傷し離脱したので、心残りはありました。元日の天皇杯決勝で鹿島に負けて、アジアカップはその悔しさをぶつける場所でもあった。南アフリカでの屈辱を晴らすために、まずは代表のレギュラーを獲りに行くという気持ちだけでした。まだ国を背負ってとか、そういう意識はなく、自分のすべてをこの大会に懸けようと」
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