奇想天外な世界観で読者を魅了する作家が、本を愛する哲学的なランナーと邂逅を果たす。6年にわたって彼女を見つめた先には驚き、感嘆、そして未知との出会いが待っていた。
今夏、『八月の御所グラウンド』という小説を上梓した。この作品は二編で構成され、表題作と「十二月の都大路上下ル」という短編が収められている。
「十二月の都大路上下ル」は、タイトルどおり、毎年十二月に京都で開催される全国高校駅伝が舞台だ。主人公は高校一年生の女子。
この短編を書くに際し、これまで陸上経験のない私は入念な準備をした。地方予選と京都での本選をそれぞれ四度ずつ観戦し、足かけ六年を経て執筆に挑んだ。
たった七十枚ほどの原稿の準備に六年。時間のかけすぎである。
もっとも、それだけに思い出も多い。
はじめて京都へ取材に訪れたのは2017年。女子の部がスタートする前のスタジアムを見学してから、中継所に向かうというプランを立てた。ひと足先にスタジアムを出発し、1区のコース沿いに歩いていたら、颯爽と先頭ランナーが白バイの先導を受けながら、追い抜いていった。
それが田中希実選手だった。
当時、兵庫代表西脇工業の三年生。
「うわ、速いなー」
あっという間に遠ざかる後ろ姿を見送った。
その後、取材を終え、家に帰った私は録画していたNHKの中継映像を見直した。
てっきり、先頭で独走していた選手はそのまま首位でタスキをつないだと思っていたら、終盤で後続に追いつかれ、三位という成績だった。
私はこの選手に、強い興味を抱いた。
なぜならば、中継のなかで、
「田中さんは去年も、二年前も、トップでスタジアムをあとにしていますね」
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photograph by Wataru Sato