激しい檄とその熱血ぶりが風物詩ともなってきた名物監督。還暦を越えたそのスタイルが近年、変化をみせている。それは大器と出会い、世界を目指すなかで育まれたものだった。(初出:Number1017号駒澤大学 [“常勝軍団”復権へ] 「大八木弘明、進化する愛の名将」)
11月23日に行われた関東学連主催の10000m記録挑戦競技会。トラックに大八木弘明の声が響く。
「そこだ、そこだ、我慢、我慢!」
実は、新型コロナウイルス感染拡大予防のため、スタンドからの応援は自粛するように求められていた。しかし、大八木は黙っていられなかった。いつもなら各校の応援が聞こえるのだが、この日は大八木の声だけが響き渡る。
大八木が駒大の指導を始めた1995年に入学し、後に世界陸上の代表となった愛弟子の藤田敦史は、今は大八木の下でヘッドコーチを務めている。その藤田がいう。
「あの声は、大八木の学生に対する愛です」
競技会が終わると、大八木は関東学連の係員に頭を下げに行っていた。もちろんルールは知っており、我慢はしようとしていた。しかし、情熱が優っていたのだ。
「平成の常勝軍団」と呼ばれた駒大。特に世紀の替わり目からは圧倒的な強さを見せた。2000年に初優勝すると、9年間に6度の総合優勝。しかし'08年に優勝した後は、なかなか頂点に手が届かない。大八木が還暦を迎える'18年には総合12位となり、シード権を逃す事態となった。
しかし、そこから大八木が、駒大が変わり始めた。
取材の現場で感じるのは、大八木の表情が柔和になり、選手たちの取材での言葉が豊かになってきたことだ。大八木が選手たちを叱咤激励する時の定番、「男だろ!」というフレーズをデザインした団扇を作ったり、いい意味での「遊び」が出てきたのである。
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photograph by Tsutomo Kishimoto