勝負を決したのは、三振の山の上に、阪神打線が打ち立てた1安打だった。対怪物に全員が徹底したルールと、巧みな策略によるこの大きな勝利は、「チーム力」なくして実現しなかった。
「令和の怪物」が3m先まで駆け寄ってきた。千載一遇の好機。大山悠輔はその苦笑いとうつむき加減にさりげなく目を凝らした。
6月4日、雲ひとつない初夏の快晴に恵まれた甲子園デーゲーム。阪神とロッテのセ・パ首位チーム対決は0-0のまま6回裏に突入していた。
1死二塁、1ボール2ストライク。佐々木朗希の148kmフォークが左打席の手前で黒土をたたき、捕手の佐藤都志也が一塁ベンチ方向にボールをはじいた。
暴投。
ホームベースまでカバーに走った21歳のわずかな頬の引きつりを、虎の4番は打撃用手袋をキツくはめ直しながら見逃さなかった。
「相手は自分を嫌がっているのか、向かってきているのか、迷っているのか。それともいっぱいいっぱいなのか。ちょっとした雰囲気の違いを表情から感じ取りたいというテーマが自分の中にあって」
直前に二盗を成功させていた走者・中野拓夢がこの日チーム全体で初めて三塁に進んだ。詰めかけた観衆4万2619人も勝負どころだと察したのか、地響きに近い大歓声が四方八方で交錯する。
〈今日はワンチャンス。ここしかない〉
1死三塁、2ボール2ストライク。主砲は迷うことなくスイングゾーンを数cm上げた。
「打席に向かう前から『三塁に行けばチャンスがある』とは感じていました。『外野フライでも1点』と余裕が生まれるし、前進守備になればチョコンと当てるだけでも内野手の頭を越える。走者は足の速い拓夢でしたし、バットに当てさえすればなんとかなる、と。それに……」
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photograph by NIKKAN SPORTS