38年前、米スポーツ誌に架空の大物新人投手の記事が載った。WBCで来日した記者は、佐々木をその伝説の投手に重ね合わせる。
当たり前だ。人間の印象は最初に決まる。そのチャンスを佐々木朗希は生かし切った。3月20日、マイアミはローンデポ・パーク。WBC準決勝のことである。
メキシコ代表のスーパースター、ランディ・アロザレーナと対峙する。2020年にレイズでポストシーズン10本塁打の新記録を打ち立てた、大舞台でこそ真価を発揮する男は、佐々木にとってタフな相手になるはずだった。
101マイル(約163km)、100マイル(約161km)の速球を2つ。続けて92マイル(約148km)のフォークを2球投げた佐々木が、獲物を仕留めにかかる。カウント2-2から102マイル(約164km)の速球を真ん中へ。火を吹くような球にバットが空を切った。大会前から佐々木のショート動画を漁っていたようなファンにとって2人の対戦はひとつの証拠になった。野球界のユニコーンは実在した、と。
4回3奪三振も3失点と、試合全体を見ればメキシコ打線を圧倒したとまでは言えない。それでも21歳の投球はじつに力強かったし、あのファストボールとフォークは紛れもなくリアルだった。余談だが、速球の威力は誰よりもウィリー・エスカラに聞くのがいい。101マイルの死球を足に食らい、翌々日に佐々木から日本の菓子(お詫びの品)を贈られたあのチェコ代表選手である。
話を戻そう。佐々木が降板した後のマウンドには、より経験豊かな山本由伸が上がった。佐々木をジャスティン・バーランダー風と評すなら、小柄な山本はペドロ・マルティネス風とでも言おうか。3回1/3を投げて4三振を奪った。
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photograph by Naoya Sanuki