衝撃のデビューから約1カ月。5試合に先発登板して2勝2敗の成績で迎えた5月3週目、ついに日本一のバットマンとの対決が実現した。うなる剛腕と、正確無比な振り子打法の主が激突する。
1999年5月16日、日曜日の西武ドームには雨が降っていた。にもかかわらず前夜からファンが列をなし、始発電車の到着とともにその列はあっという間にドームの周りでとぐろを巻く。25歳のイチロー対18歳の松坂大輔――“天才対怪物”、ふたりの初対決の日がやってきた。
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あの日のことで今も覚えているのは、対決を前にイチローさんから挨拶に来てくれたことです。西武ドームのセンターのあたりでアップしていたら、イチローさんがレフトのほうから歩いてくる。僕は心の中で『イチロー、来てるよ、イチローが来るよ』ってドキドキしていました。先輩のピッチャーと喋ったあと、僕のところに来て『よろしく』と言ってもらったと思います。
僕はトレーニングコーチにストレッチしてもらっていたから、最初は寝転がっていたんです。でもイチローさんに声をかけてもらって、あわててストレッチを中断して身体を起こしてから、『はじめまして、よろしくお願いします』と挨拶をしました。イチローさんに会ったのも喋ったのもそのときが初めてでしたし、イチローさんのほうから声を掛けてもらったので、もう舞い上がっていました。『オレ、あのイチローと喋ったよ』って(笑)。
つい最近、イチローさんから『大輔はあのとき、寝転がったまま、“ちーっす”と言った』と言われましたが、いやいや、それは絶対にあり得ない。イチローさんの記憶のほうがどこかでねじ曲がってるに決まってます(笑)。
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photograph by Kiichi Matsumoto