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[68打席の真剣勝負]イチローと松坂「唯一無二の特別な時間」

2021/11/05
対峙する二人には、無言にして雄弁な会話の気配が当初からあった――。高らかに新人が登場を告げた初対決、先達が若者をたしなめたメジャーでの再会。そしてともに日本野球を背負っていく儀式のようなフリー打撃……。公式戦すべての対戦を目の当たりにした取材者が回顧する白球による対話。

 イチロー、松坂の日米公式戦での対戦をすべて現場で取材した。1999年5月16日の初対戦から2012年10月3日、2打席目までの計68打席。そのなかで最もインパクトがあったのは、初顔合わせでの3打席連続三振で間違いない。

 1999年シーズン、それまでわずか9三振のイチローが、打球をフェアゾーンに飛ばせなかった。同じピッチャーからの1試合3三振は通算3度目。前年まで5年連続首位打者、国内ではほとんど無双状態だったあのイチローが、バッターボックスで天を仰ぎながら首を振った。高卒ルーキーらしからぬ松坂のピッチングもさることながら、良いところなく敗れたその姿は、むしろ新鮮にさえ思えた。

「これまでは何か自信がなかったけど、自信が確信に変わりました」

 松坂が超満員の観衆を前にヒーローインタビューを受けていたとき、イチローは球場裏のパーキングに向かっていた。

「3三振した僕が言えることじゃないけど、これからの対戦をイメージしていきたいですね。勝負以外の楽しみが増えました」

 小雨が降る中、たしかチームバスに乗り込む直前のこと。いま思えば、その時のかすかな笑みは決して負け惜しみではなく、新たな壁の出現を歓迎しているかのようだった。

 あの頃のイチローは、「勝負以外の楽しみ」に飢えていた。正攻法で彼を封じようとするのは黒木知宏(千葉ロッテ)らひと握り。1997年には伊良部秀輝(千葉ロッテ)がアメリカに渡り、その数はさらに少なくなっていた。

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photograph by AFLO

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