昨季の雪辱に燃えるオリックスは今年、新たな武器を手にしていた。頂点までの道のりには指揮官の思い切った采配と、それに応えた選手の姿があった。
悲願の日本一の瞬間、選手たちはいっせいにグラウンドへ飛び出し、ガラガラになったベンチで、指揮官は頭を抱えた。
「終わった……」
フル稼働し続けていた思考回路に、ようやく一旦休止の指令を出した。
「これ同点になったらどうしよう、延長行ったら……といろいろなことを考えていたので、『やっと終わったな』と。(ヤクルトは)すごい追い上げ方してきますんで、何点あっても、追いつかれるんじゃないかと防戦一方に感じていましたから」
中嶋聡監督は安堵と疲労を漂わせた。苦しい日本シリーズだった。2敗1分からのスタート。特に第2戦は、3-0で迎えた9回、今季中継ぎ・抑えとしてレギュラーシーズンで44試合に登板しわずか3失点だった阿部翔太が、内山壮真に3点本塁打を浴び、勝利目前で追いつかれた。だが日本一決定後、このシリーズの流れを変えた分水嶺は? と問われた監督はこう答えた。
「2戦目、同点ホームランはありましたけど、そのあと阿部が抑え切って、そのまま中継ぎ陣が引き分けで終わってくれたのは非常に大きかった。あの時に、まだいける、この試合はなかったことにできるという、そういう開き直りから始まり、4戦目の、強いて名前を挙げるなら宇田川ですかね。あの時から、このピッチャー陣だったらいける、というふうには思いました」
指揮官が挙げた分かれ目はどちらもリリーフ。そこがオリックスの今年の新たな強みであり、継投がこのシリーズの肝だった。
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photograph by Naoya Sanuki