青木宣親には予感があったのだという。
「なんだかやりそうだな、という雰囲気を感じたんです。僕、レフトだったんで、センターの塩見(泰隆)を横から見ることになるんですけど、センターにゴロが飛んだとき、その打球と塩見がバウンドに合わせる接点があるじゃないですか。それが合わないんじゃないかと感じて、いつもより早くカバーリングのスタートを切っていたんですよね。でもバッターランナー(宇草孔基)のほうが速くて、あっという間にホームまで辿り着いちゃいましたけど(苦笑)」
昨年の10月21日のことだ。
リーグ優勝までマジック3、残りはこの日を含めて6試合を残していたスワローズは、神宮球場でカープと戦っていた。1-3と2点を追う4回、一挙に5点を挙げて6-3と逆転したスワローズだったが、7回にノーアウト一、二塁のピンチを背負う。ここで宇草がセンター前へヒットを放った。二塁ランナーの生還を防ごうとチャージしてきたセンターの塩見だったが、彼がその打球を後逸してしまったのである。レフトの青木が素早くバックアップするも、バッターランナーの宇草までもがホームに還って、あっという間の同点――その直後、青木が塩見のもとへ歩み寄った。
「とにかく切り替えていこうってことを話しましたけど、でも、気にするなと言ったって気にしますよね。もし自分があの場面であれ(後逸)をやってしまったら、絶句もののプレーですから(笑)。正直、長い野球人生の中で他の人のプレーにあれほど気持ちが揺れ動いたことはありませんでした。なぜか僕が動揺しちゃって、ものすごく重たく捉えたんですよね。優勝を懸けて戦う中で、僕もプレッシャーを感じていましたし、塩見もそうだったと思います。だからこそ、他の選手のプレーが自分のことのように感じられて、気持ちがハッと動くところがあった。それは僕が歳を重ねたからなのかもしれないし、そういう立場だとわかっているからなのかもしれません。もちろん今も自分がプレイヤーとして価値ある存在であることは必要なんですけど、それよりもチームが勝つことが何より大切なことになってきていますから……」
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています