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「ゼロで終わりたくない」青木宣親が語るバットマンとしての勝負哲学《スワローズを支える大ベテラン》

2022/03/18
百戦錬磨の男も優勝の懸かる昨季終盤はかつてない重圧を感じていた。年々増していく勝利への執念。不世出の安打製造機は個人記録ではなく、チーム全体の喜びのために、今日もベスト・バッティングを模索する。

 青木宣親には予感があったのだという。

「なんだかやりそうだな、という雰囲気を感じたんです。僕、レフトだったんで、センターの塩見(泰隆)を横から見ることになるんですけど、センターにゴロが飛んだとき、その打球と塩見がバウンドに合わせる接点があるじゃないですか。それが合わないんじゃないかと感じて、いつもより早くカバーリングのスタートを切っていたんですよね。でもバッターランナー(宇草孔基)のほうが速くて、あっという間にホームまで辿り着いちゃいましたけど(苦笑)」

 昨年の10月21日のことだ。

 リーグ優勝までマジック3、残りはこの日を含めて6試合を残していたスワローズは、神宮球場でカープと戦っていた。1-3と2点を追う4回、一挙に5点を挙げて6-3と逆転したスワローズだったが、7回にノーアウト一、二塁のピンチを背負う。ここで宇草がセンター前へヒットを放った。二塁ランナーの生還を防ごうとチャージしてきたセンターの塩見だったが、彼がその打球を後逸してしまったのである。レフトの青木が素早くバックアップするも、バッターランナーの宇草までもがホームに還って、あっという間の同点――その直後、青木が塩見のもとへ歩み寄った。

「とにかく切り替えていこうってことを話しましたけど、でも、気にするなと言ったって気にしますよね。もし自分があの場面であれ(後逸)をやってしまったら、絶句もののプレーですから(笑)。正直、長い野球人生の中で他の人のプレーにあれほど気持ちが揺れ動いたことはありませんでした。なぜか僕が動揺しちゃって、ものすごく重たく捉えたんですよね。優勝を懸けて戦う中で、僕もプレッシャーを感じていましたし、塩見もそうだったと思います。だからこそ、他の選手のプレーが自分のことのように感じられて、気持ちがハッと動くところがあった。それは僕が歳を重ねたからなのかもしれないし、そういう立場だとわかっているからなのかもしれません。もちろん今も自分がプレイヤーとして価値ある存在であることは必要なんですけど、それよりもチームが勝つことが何より大切なことになってきていますから……」

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photograph by Nanae Suzuki

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