連夜の接戦を演じ、史上屈指の名シリーズを制したスワローズ。信じ、我慢し、全員を生かせれば、それだけチームとして強い。日本一の指揮官が語る、“絶対大丈夫”に根拠を与えた基盤とは。
「6度目の日本一、おめでとう。俺らが日本一。俺らが日本のトップだよ」
就任2年目、53歳になったばかりの高津臣吾監督は選手たちにそう話しかけてから、宙を舞った。ヤクルト、20年ぶりの日本一である。
極めて、厳しいシリーズだった。いや、厳しいシリーズになることを戦前から高津監督は予想していた。
「短期決戦では、絶対に乗り遅れちゃダメ。全員が同じバスに乗って、目的地に到達することが大事なんです。数字には表れないけれど、シリーズを戦ううえでの目に見えない勢いや流れを作っていくには、みんなが乗っていくことが重要だから。たとえば、打者だったらシリーズの打率が2割でも構わない。要は、肝心の一本が出れば、バスに乗れる。先発はゲームを作り、ブルペンは打たれることはあっても、他の試合で重要なアウトを取れば、一緒に乗っていける」
オリックスに対しては、これが逆の発想になる。バスに乗れない選手をいかに作るかが戦略的に必要になる。
「チームの主砲である吉田正尚選手であったり、杉本(裕太郎)選手を乗せないことが大切。シリーズを通じて、誰かのところで打線が切れる状況を作るのが基本的なセオリーです」
この発想は、高津監督が1990年代にヤクルト黄金時代のメンバーだったことをあらためて想起させる。日本シリーズでは清原和博を擁した西武、イチローがいたオリックスと戦ったが、徹底した研究を基に、女房役の古田敦也とともに配球を練り上げ、相手方のバスに乗れない選手を作っていく。その2021年バージョンを作り上げようとしたのである。
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photograph by Hideki Sugiyama