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<現役最終戦に秘めた思い(3)> 野口みずき「感謝を伝えておかなければ」

2020/10/07
途中棄権となった'13年8月の世界陸上以来のフルマラソンへの出走で、5km付近で先頭集団から徐々に離されていった
酷暑のアテネを駆け抜け、一番の笑顔を見せたランナーは12年後の春、名古屋の地で号砲を待っていた。彼女にとって最後の42.195kmは一体、どのようなレースだったのか。

2016.3.13
名古屋ウィメンズマラソン
成績:23位 2時間33分54秒

   ◇

 トップを走るランナーの背中が見えなくなった。5kmまでは小さいながら何とか視界にとらえていたのだが、ついに完全に消えてしまった。10km過ぎ、野口みずきはリオデジャネイロへの道が閉ざされたこと、これが自分の最後のレースになることを悟った。

 五輪最終選考レースとなった名古屋ウィメンズマラソン。そのスタートから40分後のことだった。

《大会前、もしかしたら奇跡が起こるかもしれないという気持ちはありました。ただ正直に言えば、体はボロボロで、出ない方がいいというくらいの状態でした》

 奇跡は起こらない――。そう野口に告げたのは自らの左足だった。かつてのようなストライド走法で地面を蹴ろうとしても、言うことを聞いてくれないのだ。

 8年前、北京オリンピックのレースを直前で回避する原因となったのが左足太ももの肉離れだった。そこから完全に癒えることなく騙し騙しやり過ごしてきた古傷は、いつしか身体に棲みついた魔物のようになり、その後も突然、後遺症のように姿を見せるようになった。

《走っていると、抜けるというか……。左足に力が入らなくなるんです。左右の筋力差ができてしまって、走りのバランスが崩れてしまっていたんです。怪我というか、神経的な病気のような感覚でした》

五輪への微かな望みが断たれたとき

 ラストチャンスと決めたこのレースだけは……。野口の祈りは通じず、10kmを過ぎたところで魔物は現れた。日本歴代最高記録を持つランナーをズルズルと先頭争いから引きずり下ろし、五輪への微かな望みを断ち切った。

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photograph by KYODO

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