生態学、サル学、霊長類学さらに独自の進化論まで、壮大な“今西自然学”に一貫するのはフィールドワーク重視の姿勢だ。タイトルから釣り随想かと思わせられる本書も、また同様だった。
いきなり論稿が2本。日本のヤマメとイワナはそれぞれ一種類しかいないのか、あるいは別の種がいるのかの考察だ。イワナは渓流の上流に棲み、濃色の地色の上に淡色の斑点が散らばる。ヤマメは下流にいて、地色が淡色で濃色の斑点がある。両者の判別法は「しろうとにはこれで十分だ」。しかし学者の間ではそう簡単ではない。イワナの種類をめぐっては世界中で論議され、その縮図が日本での激しい論争だったという(石城謙吉『イワナの謎を追う』=岩波新書より)。火種のひとつが本書収録の「イワナ属――その日本における分布」だった。学名が飛び交い、分布が検証され、色の違いが詳述される。そして、研究者の名を挙げ、「実地踏査もしないで…分布圏をでっちあげた」などと容赦ない指摘。学問の場のクロスチェックの厳格さを知らされる。
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